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邂逅 過去 ページ20

もう四年も前に為るだろうか、学校から帰ると家の目の前に男が血だらけで倒れていた。
突然の非日常な光景に当時一介の女学生であったAは息を飲んだが、見捨てることも出来ず男を抱えて家にあげた。

此のヨコハマの土地で血塗れで倒れている事から彼の素性は何となく察したが、警察を呼ぶことはせず其れよりも止血が先だと強く思った。
家にあった湿布や包帯をかき集め、昏睡している男の手当をする。
男は苦しそうに呻く中で人の名前を呼んでいたが手当に必死だったAの耳に入っていない。

一通りの手当を終えて、彼の夕餉を作ってしまおうと思った矢先、男が起きた。
男は自身に手当が施されてることに驚いたようだったが、同時に目の前のAを酷く警戒しているようで、Aは慌てて怪しまれないように自分の素性と男が倒れていたこと等を詳細に説明する。

それでも男は酷く警戒した様子で「貴様が救いようの無いお人好しだとはわかった。だが如何して僕を助けた。この地で生き倒れている男が如何言った者かは貴様でも知っているだろう。自分の身が危険だとは思わなかったのか?」と聞いた。其の質問が、男が純粋に理由を理解できなくて訊いているものだと感じたAは自身の思っていることを嘘偽り無く答えた。

『確かに、貴方が怖い人だとは思ったけど…、だからと言ッて見捨てて良い理由にはならないよ。貴方がどんな人であっても私は貴方を助けたよ。どんなに悪い人でも助けられる権利は平等にあるはずだッて、少なくとも私は思ってるし…。私が助けたいと思ったから助けた。これで理由になってるかな?』

緊張感無く、えへへと頬を掻くAに男は呆然としていた。
男は暫く固まった後、静かに「そうか…。そうなのか…」とだけ呟いて再度Aを見る。

「…もう一度名前を」
『Aだよ。…貴方は?』

男は少し躊躇った後、「盛遠」とだけ言った。

『盛遠ね!うん、貴方が何者か、とかは聞かないよ。でも其の怪我が治るまでは此処にいてほしいな』
「…其れは只のAのエゴか」
『そうだね。エゴだよ。だから盛遠も私のエゴに付き合って』

男は観念したように薄く微笑んで、わかった。と言ったものの、次の朝には彼の姿は何処にも無かった。
そして、Aも盛遠の顔や喋り方の記憶がそこだけすっぽりと頭から抜け落ちたような感覚に首を傾げていた。

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牧野江(プロフ) - 黄身麻呂さん» コメントありがとうございます。芥川のお話は特に書きたいものだったのでそう言っていただけるととても嬉しいです。主人公ちゃんに付きまとって勝手にメロメロな芥川、文字列だけでも最高です。書かせていただきます!ありがとうございます。 (2021年1月5日 19時) (レス) id: c6b47ba73e (このIDを非表示/違反報告)
黄身麻呂 - とてもクオリティが高いこの小説が大好きです!特に主人公を勝手に神格化する芥川が性癖に響いて「邂逅」は何度も読み返してます(笑)リクエストで、もし可能でしたらまた主人公に付き纏ってメロメロな芥川がみたいです!よろしくお願いします!! (2021年1月3日 0時) (レス) id: 1955a7e5f1 (このIDを非表示/違反報告)
牧野江(プロフ) - 紅月ミレーさん» 遅くなりまして申し訳ありません。自己満のためにこの話を書いているので自分の欲を優先してリクの話は書く事が遅れてしまうかも知れませんがそれでもよろしければリクエストも受け付けようと思います。ありがとうございます。 (2020年11月27日 13時) (レス) id: c6b47ba73e (このIDを非表示/違反報告)
紅月ミレー - すみません、リクは有りですか(´・ω・`)? 太宰治様に笑顔で呼ばれるシーンを何度も見てしまいます(*^□^*) (2020年10月8日 18時) (携帯から) (レス) id: a496965e6a (このIDを非表示/違反報告)
紅月ミレー - 牧野江さん» ありがとうございます(≧∇≦) 楽しみに待ってます(*^□^*) 今回も面白かったです、皆心配してたんですね(^ω^) (2020年9月16日 17時) (携帯から) (レス) id: a496965e6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:牧野江 | 作成日時:2020年8月30日 1時

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