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「ねぇ、ちょっと見てこれ!」
いつものように始業ぎりぎりに登校したら、普段はばらばらのクラスメイトたちが一人のスマートフォンを囲んでガヤガヤと騒がしくしていた。
ああ、そう言えば昨日、人気ドラマの主題歌が投稿されてたな。大方、そんな話でもしてるんだろう。
今から話に交じるのも面倒だから、自席で準備をしていたら、なぜかみんなの目線が俺に向いている。あれ、そんなに前髪ハネてるかな。確かに今日は寝癖が治らなかったけど。
「長瀬くん……ねえこれ」
話題の渦中にいた女の子が、スマートフォンを見せてきた。
「……っ!!」
意識せずとも顔が引き攣る。
高い位置で結んだツインテール、上目遣いでじっとカメラを見つめる媚を売ったような目。
一刻も早く忘れたい、中学時代の自分の写真があった。
「友達がL○NEで送って来たんだよね〜。ここの高校だって言ったらこんなやついない? って。見覚えなかったけど、名前聞いたら納得したよ」
目を逸らしたくても、突き付けられた過去から逃げられない。自分より背の高い友達から撮られた写真は、見上げるようになるのは仕方ないのに。
幻滅されたら。気持ち悪いって言われたら。
それだけが怖くて、ただ目の前の現実に対して目を瞑っていた。
「まぁ、可愛いと思うけど!」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
「ギャップ萌えってやつ?どっちも好きー」
「長瀬くん、写真の服めっちゃ可愛いじゃん! そういうの興味ないかと思ってた!」
「俺、昔の長瀬だったらアタックしてたかもなー」
「さり気に告ってんじゃねえよ、女子どもから殺られんぞ」
各々が漏らす感想は、思ってたのとは違って。
「どんな長瀬ちゃんだって、長瀬ちゃんなことには変わりないんだから。見た目のこと言ってるけど、なんだかんだみんな、長瀬ちゃんのその中身が好きなんだよ」
「藤川も、みんなも……」
ちっ、こんなの。
うるってきちゃうじゃないか。
「ありがとな!」
出かけた涙をぐいっとぬぐった手でVサインを作って、にかっ、と歯を見せて笑ったら、タイミングよく予鈴が鳴った。
そうだ俺、ぎりぎりに来てたんだっけ。
散り散りに席に戻っていくクラスメイトを眺めながら、ふと昔の担任の話を思い出した。
「自分で選んだ高校は、同じような理由で選んだ人たちがたくさんいる。かけがえのない友達ができることを保証してやろう。」
ずっと付きまとってきた「昔」から、今離れられた気がする。
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ユウピィ(プロフ) - 面白かったです。あとコメントをチャットのように使うの禁止なんですね。わたしの作品にコメント付く前に知れて良かったです。 (11月7日 0時) (レス) id: c1f9464c72 (このIDを非表示/違反報告)
河原美羽奈(プロフ) - 魔女さん» ありがとうございます……!そのようなことを言われたのが初めてなので正直驚いています。他にもいい作品、たくさんあるはずです。占ツクは侮れないです。ぜひ探していただければ、と思います。 (2019年1月7日 8時) (レス) id: 1e0898c908 (このIDを非表示/違反報告)
河原美羽奈(プロフ) - 飴玉さん» 何かがきっかけで、飴玉さんが変われていたのなら自分も嬉しいです。コメントありがとうございます。 (2019年1月7日 8時) (レス) id: 1e0898c908 (このIDを非表示/違反報告)
魔女 - 最高傑作です!これ程にも作り込まれた小説をこのサイトで見たのは初めてです。 (2019年1月7日 0時) (レス) id: 0ba778a579 (このIDを非表示/違反報告)
飴玉 - 筑紫ちゃんが、、、、完全私だ;゚Д゚) (2018年10月8日 17時) (レス) id: aea70470cb (このIDを非表示/違反報告)
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