消えてしまった世界で【太宰治】

・ ページ30

私たちは近くにあった喫茶店に入った。






「私は珈琲を。」







「あ、私はココアでお願いします。」





会話が止まる。






「…先ずはすみませんでした。公共の場でいきなり話しかけてしまって。」







「お構いなく！私もお節介を焼いてしまって…」





最初の会話は謝罪から始まった。





「…私の探している人とあなたの雰囲気がとてもよく似ていて…つい話しかけてしまいました。」







「探し人ですか？」








「はい。とてもとても大切な…」








「そうなんですか…恋人さんですか？」









「いえ、違うと思います。」









「ではどの様な…？」









「それは…」





分からない…なんて言える筈がない。





「無理して言わなくて良いです。私も深堀をしてしまいすみませんでした。」





また気まずいまま会話が途切れる。



その時、マフラーに目が止まった。





「…綺麗な色のマフラーですね。」









「あ、これですか？私が作ったんですよ！」








「それは凄い。お上手です。」








「そんな事ありませんよ…ほら、所々網目も飛んじゃってますし…」




と言って見せてきた。





「…本当は誰かにプレゼントするつもりだったんです。でも編んでる途中で忘れてしまって…」





その時、また頭の中でノイズ音が響いた。




「完成し…わた…ちょうだ…」





あゝ、さっきと同じだ。



遠い遠い記憶。




「私そこまで器用じゃなくて…こんなの、貰った方が気の毒だと思って結局、

私がつけてるんです。」







「…そうでしょうか？」

true end→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す