難易軽重 ページ30
職場のオフィスに緊張の面持ちの新入社員が一列に並び月並みな言葉で挨拶をする中、俺は別段表情を変えるわけでもなくさっと横から流すように顔を見るだけだった。だが彼女を目にした途端これも月並みな言葉にはなるが、
恋に落ちて、心を奪われてしまったのだった。
｢うっしーはさーどういう子がタイプなの？やっぱこの乳でかい子？｣
｢ちっげーよバカ、あと声でけーよ｣
このデリカシーとモラルの欠けらも無い発言をする(そのくせ女ウケは良い)会社の規則ギリギリの茶髪の彼はキヨという男で牛沢のいつものメンツでもある。
彼は新入社員達の挨拶の文と初々しい笑顔の写真が載っている社内通達の紙を合コンの参加リストの様な扱いで見ている様だった。
｢違うの？あれ、うっしーもしかしてケツ派？｣
｢そうじゃねえよ｣
｢…………え、もしかして…｣
嫌な予感がしてキヨの方へと顔を向けると案の定彼は自信の顔を指さしながらドン引きというような顔でこちらを見つめていた。しょうもない。とてつもなくしょうもないのだが突っ込んでしまうのが牛沢の性である。
｢はいはい、ごめんって。うっしーはどうせここら辺でしょ｣
そう言ってキヨはぽんと軽く人差し指で一人の女の子の写真を指さした。
正直牛沢はキヨに構っている余裕など無かった。一刻も早くあの子のプロフィールが見たいのだと躍起になって探しているのに彼が邪魔ばかりするせいで牛沢は未だ彼女を探すことが出来ていなかったからだ。
｢あ、｣
｢…あ？｣
偶然か、必然か、はたまたキヨの勘が良いのか。彼が指さした彼女は正しく牛沢が探していた女の子であったのだ。
思わず動揺の声が漏れた事にはっとなるも、時すでに遅しとはまさにこの事。隣の彼は悪巧みする悪魔の様な顔で笑っていた。
｢恋のキューピットになってあげるよ、うっしー｣
｢キューピットって面じゃねえよ｣
やっぱり突っ込んでしまう牛沢だが頭の中ではAという文字と響きがぐるぐると渦巻いていた。
それから程なくしてAと牛沢はよくご飯に行ったりするようになり、あれほど満開だった桜の木に雪が積もる頃にはお付き合いをする事になっていた。
キヨがキューピットになったかはいまいち謎ではあるが、彼もいつしか見守るような目で牛沢を支えていてくれた。
そう周りには密かに、しかし順調に社内恋愛を楽しんでいた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 170人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
color(プロフ) - 合っていまして… ！！徹頭徹尾好きで溢れてて同じ小説を書くもの、参考にもなりました…作者様のファンになりました笑 久しぶりのドキドキをありがとうございました、、！長文失礼しました。 (2022年6月12日 1時) (
レス) id: 6967548606 (このIDを非表示/違反報告)
color(プロフ) - 先程見つけて全部読ませて頂いたのですが……！言葉選びや表現の仕方等がとても素敵で…感動しました、どの話も好きです…特に「後悔愛に立たず」が一番好きです…思わず背筋がゾクッ、としましたし、彼の彼女に対する愛情や最後の終わり方が物凄く私の趣味に (2022年6月12日 1時) (レス) @page49 id: 6967548606 (このIDを非表示/違反報告)
蠍(プロフ) - もふたにえんさん» ありがとうございます！！言葉選びにはけっこつ気を付けています笑なのでそこに触れて頂きとても嬉しく思います！！本当にのろまな更新ですが引き続きよろしくお願いします。 (2019年9月16日 3時) (レス) id: 19b4bd13c3 (このIDを非表示/違反報告)
もふたにえん(プロフ) - 新しい話更新されていて急いで読みました！蠍さんの作品は全て綺麗な言葉で書かれておりどれも飽きません。完全に蠍さんのファンです笑これからもゆっくり更新待ってます！ (2019年9月16日 3時) (レス) id: a8f8fce798 (このIDを非表示/違反報告)
蠍(プロフ) - 佳奈さん» ありがとうございます！とっっっても励みになります！！ (2019年9月16日 1時) (レス) id: 19b4bd13c3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蠍
| 作成日時：2019年6月27日 12時
