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いつも居るパソコンのデスクにも最初の頃から興味津々であったテレビの前にも彼女の姿がなく、はてと首を傾げた牛沢は家をキョロキョロと見回しながら探し回る。
「あ、」
「…あ、牛くん」
小さなタンスの上に伏せてあった写真たてをご丁寧にしっかりと飾り直して彼女は呆然と突っ立っていた。一拍遅れてこちらに気付くも牛沢の名を言ったっきりまた視線を前に戻し、黙々と写真たてを見つめている。何となくというか仕方なくというか、彼女の隣まで行って一緒に眺めていると「誰?」とAは写真の中で牛沢の隣にいる女を指さした。今更元恋人だと言いにくくなる訳もないが、簡潔に述べるとそうなのかと納得した様子だった。
好きだった?まぁな。可愛かった?…まあな。
彼女さんはどんな人だった?
「…お前によく似てるよ」
その質問にだけは空返事出来なくて小刻みに震える指先でAの頭を撫でた。どうやら人間の細やかな感情にはどうも適応できないらしく彼女は眉をひそめる。が、その時。
「ぅ…っ!?」
突然彼女に両手で頬を圧迫され情けない声を上げる牛沢に対し彼の慌てようなど気にも止めずアンドロイドらしい目でAは目の前の男の目をすっと見つめた。その行動に不信感を抱いた牛沢は動きをピタリと止め、同じように見つめ返した。
一秒二秒と過ぎ行く時間の中で確かに牛沢は瞳の奥に感情を読み解いた、がそれを上手く言葉には出来ずに喉を鳴らして見たもの全てをグルグルと頭で悩ませた。
「いつも牛くんはそういう目をするね
なんで?」
単なる興味ではない。そう確信させたのは確かに瞳の奥に他の、別の、もっと人間臭い感情を見たからだ。細い腕なんて振りほどいてしまえば良いものをどうにも牛沢にはそれが出来ずに緊張のよって心拍を早めるだけだった。
満足のいくまで見つめ合ったAは頬を挟んでいた両手を下ろし、何事も無かったかのようにそのまま横を通ってリビングの方へと歩いていってしまった。
そういう目、と彼女は指していたが果たしてアンドロイドは牛沢の目を見て何を見出してしまったのだろうか。大前提としてアンドロイドに感情があるはずないのだが今の行動から見て疑いは確信へと変わりつつある。もし、感情を完全に持ったのなら彼女は次どんな行動を起こしてくるのだろうか。
牛沢は先程までAが興味を持っていた写真たてを手に取る。
やはり、アンドロイドをAに見立てるなんて、互いを狂わせる問題にしかならないのだろうか。
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color(プロフ) - 合っていまして… !!徹頭徹尾好きで溢れてて同じ小説を書くもの、参考にもなりました…作者様のファンになりました笑 久しぶりのドキドキをありがとうございました、、!長文失礼しました。 (2022年6月12日 1時) (レス) id: 6967548606 (このIDを非表示/違反報告)
color(プロフ) - 先程見つけて全部読ませて頂いたのですが……!言葉選びや表現の仕方等がとても素敵で…感動しました、どの話も好きです…特に「後悔愛に立たず」が一番好きです…思わず背筋がゾクッ、としましたし、彼の彼女に対する愛情や最後の終わり方が物凄く私の趣味に (2022年6月12日 1時) (レス) @page49 id: 6967548606 (このIDを非表示/違反報告)
蠍(プロフ) - もふたにえんさん» ありがとうございます!!言葉選びにはけっこつ気を付けています笑なのでそこに触れて頂きとても嬉しく思います!!本当にのろまな更新ですが引き続きよろしくお願いします。 (2019年9月16日 3時) (レス) id: 19b4bd13c3 (このIDを非表示/違反報告)
もふたにえん(プロフ) - 新しい話更新されていて急いで読みました!蠍さんの作品は全て綺麗な言葉で書かれておりどれも飽きません。完全に蠍さんのファンです笑これからもゆっくり更新待ってます! (2019年9月16日 3時) (レス) id: a8f8fce798 (このIDを非表示/違反報告)
蠍(プロフ) - 佳奈さん» ありがとうございます!とっっっても励みになります!! (2019年9月16日 1時) (レス) id: 19b4bd13c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蠍 | 作成日時:2019年6月27日 12時