【Free!】林檎【山崎宗介】Part3

第82話 ページ2

ー翌日ー

ー放課後ー

「世良先輩、昨日はすみませんでした」

「今度から気をつけろよ。引き継ぎはまた先延ばしだ」

「…はい」

気をつけろってどういう事？

「……A、ちょっと来い」

そう言って世良先輩は人目のつかない所に手招きする

「橘と、何かあったんだろ」

コソッと言う世良先輩

「……何でですか」

「誰かが流してるらしい。……有名だからな、お前たち」

……七菜香だ、絶対

三年生にも伝わってるって事は、二年生は…

「別に何もありませ…」

「嘘だ」

真剣な顔つきで言われる

「…言いにくい事なら仕方ないけど困った時は、頼れよ」

ニコッと笑って世良先輩は言ってくれた

私の顔を真っ直ぐ見つめて

「ありがとうございます…」

私には、ちゃんと頼れる人がいる

「おう」

だから大丈夫

普段通りに、普通に過ごせば良い

七菜香の事も、忘れよう

ー数時間後ー

「お疲れ様でしたー」

バタンッ

あ、そう言えば世良先輩…いつまでなのかな？

他の三年生はとっくに引退してる

けど世良先輩は、週二回くらい顔出しをしてくれてる

…これで受験勉強もしてるんだから偉いよね

あー来年は追い込まないとなぁ

大学受からないと何もでき…

「えっ！？」

「あ、A。お疲れ様」

赤くなってる鼻を擦りながら白い息を吐く真琴先輩

手に持っていた参考書を閉じて鞄にしまいながら私に近付く

「帰ろうか」

ニコッと笑う真琴先輩は、いつもの真琴先輩のままだった

ずっと、待ってたのかな

耳まで赤いし…

私は電車通学で真琴先輩とは家の方向も違う

今までは約束してたから良かったけど…

私は、それを破ったのに

「はやかったね、今日」

「え、いつもと時間…変わらないと
思いますけど…」

「違うよ。タイム、ベストだったでしょ」

チラッとこっちを見て、また真琴先輩は微笑む

見てて、くれたんだ

その笑顔を、失いたくなかった

私のせいで無くなってしまうのが、とてつもなく嫌なんだ

私だけが苦しいんじゃないよね

「A、A…？」

「っ、はい！」

「俺について来ても、家には辿り着かないよ」

そう言いながらクスリと笑う

周りを見ると、Y字路の別れ道を真琴先輩の家の方向に向かってた

「あ、ちょっとボーッとしてて…」

上の空だった

「疲れたのかな…？じゃあね、また明日」

「……はい」

真琴先輩の言葉一つ一つが、何故か優しい

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