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第257話 月 H ページ19

奏side


奏「それは違う」

唐突に言葉を発した。


聞いていられなかった。ずっと一緒に過ごしてきた楓が吐く言葉を。


奏「なぁ楓、お前は人の為にタヒねるならって言った。けどな、お前が生きる事で救われる人はどれだけいる?
司は?彼方は?96は?渉は?三年生だけじゃない。
ずっとお前を慕ってきた翔太は、坂田は?真冬は?
もっと言えば、ライブを一緒にやった皆は?天文部員は、お前のリスナーは。何よりも俺がいる。
…ほら、こんなにいるんじゃんか」


楓の瞳が揺れる。

玲音の表情は、俯いていて読めない。



『でも、私…私が生きてる意味なんか』

無い、と言いかけるのを遮った。


奏「もし、お前が何も思い残す事が無い、タヒんでもいいって思っていたとしても。
それでも、俺や皆、“人の為に生きてくれないか”」


彼女の青い瞳から、涙が一筋伝った。

がくん、と崩れ落ちた楓を支える。



『私────タヒにたいって、思ってたはず、なのにね』

今じゃなんとも思わないや、と微笑を浮かべる。




玲「あーあ」

穏やかな雰囲気を破ったのは、彼女の一言。


玲「見事な兄妹愛ですねぇ…私そーいうの大っ嫌いなんですよ」

『玲音ちゃん…』

ごめん、と楓が呟くと、彼女は嗤った。



玲「謝罪の言葉なんていらないです。貴方の心臓奪おうと思ってましたけど、もういいですよ」

幸せそうな人の心臓なんて、いらないと彼女ははっきり口にした。



玲「死神は、タヒにたくてタヒにたくてたまらない人の心臓を奪いに行きますから。
人生に絶望してる人の心臓でも奪いに行きますよ」


貴方達とはもう二度と会う事は無いでしょう、と淡々と告げる。


『え…』

楓が悲しそうな表情をした。

アイツにとっては、玲音も大事な後輩の1人なのだろう。


玲「心臓を奪われかけた死神にその反応どうかと思いますよ…w」

ま、それが貴方の良いところですよ、と彼女は微笑んだ。



そして彼女は爪先を地面にコツコツコツ、と鳴らした。

すると彼女の下に現れる魔方陣らしきもの。

玲「───────」



そして次の瞬間には、魔方陣も彼女も跡形もなく消えていた。

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作者名:月見だんご 赤メガネ x他2人 | 作成日時:2018年1月10日 3時

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