ねぼすけの君に (ページ8)

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ねえ、8 ページ8

「間違っていたらすみません。もしかして、伊沢さんの言ってた新メンバーの方ですか？」
『いや、新メンバーっていうか……その……。」
「やっぱり！そうだったんですね。あ！僕、山本祥彰っていいます。よろしくお願いします。」

礼儀正しく頭を下げられてしまって、断ってきたんです、なんて言い出せる雰囲気ではなかった。
あとあと、伊沢くんの方から断られました報告がくるであろうことを祈って、ここではやり過ごすのが第一だと思った。

「伊沢さんの推薦だったからメンバーみんな、どんな人か気になってたんですよ。いきなりで失礼なのはわかってるんですけど、これからお時間ありますか？」
『え？お時間？えっと……えーと……あ、あります。』

あまりにもキラキラとした目で話されるものだからどこでこの会話を途切れさせていいものかわからなくなってしまった。
この後大した用事もなく、時間は有り余っている。
有り余っているけれども、ここで、あります。と口走ってしまったのは、絶対にいけなかった気がする。

「僕、これからオフィスに行くんです。メンバーに挨拶がてら、よかったらどうですか？」

嫌な予感は的中した。
伊沢くんに、やっぱり入ります！と言うには絶好のチャンスだが、意気地なしの私にはハードルが高い。
文面でも無理だったのにいきなりオフィスにお邪魔してよろしくお願いします。なんて、それについさっき断ったくせに失礼ではないだろうか。

しかし、このチャンスを逃したら、次はいつこんなチャンスがやってくるのだろう。
このチャンスを逃したらまた、伊沢くんと数年間話せない状態になってしまうのだろうか。
数年間どころじゃない、もう、話せなくなるのかもしれない。
そんなことになるのは、嫌だ。

一世一代の勇気を振り絞るならここなのではないだろうか。
自分の拳をぎゅっと握って、私は覚悟を決めた。

『ぜ、是非、行かせてください……！』

覚悟を決めた割には少し声が小さかったかもしれない。
大丈夫、今度こそ、大丈夫。
このチャンスを逃さないように、捕まえないといけない。

また、高校の時みたいに伊沢くんとクイズが一緒にできたら、今度こそ伊沢くんにクイズで勝てたら、前よりも仲良くなれたら、あの日の返事が聞けたら。

私の言葉を聞くと、山本くんはまた暖かい笑顔を見せてくれた。

「じゃあ、行きましょうか。」

私は笑顔の後ろで深呼吸をする。

この覚悟が揺らがないように。