ねぼすけの君に (ページ1)

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ねえ、1 ページ1

(your side)

『伊沢くん、好きだよ。』

あの日のことがいつまでも、いつまでも、脳裏に焼きついたまま離れない。
夢に出てくるのも何度目だろうか。

塾の卒業式の打ち上げの焼肉のあと。
桜が咲き始める、朝は少し眠たくなってしまうような季節。
肌寒いような、生温いような、そんな気温の中で君にポツリと漏らした本音。

返事ははぐらかされたまま、君は遠い人になってしまった。

『まだ、すき、なんだよなあ……。』

ため息をついて、重たい体を起こして、今日も1日が始まる。
カーテンを開ければ見知った道がそこにあって、道端の花壇には今日も素敵な花が咲いてる。
お隣さんのおばあちゃんの笑顔も温かい。
2日目の味噌汁もおいしくて、ホッとする。

『大丈夫、私の人生、恋愛だけで決まるもんじゃない！』

あの夢のせいで落ち目だった気分を上げて、1限に間に合うように部屋を出た。

気分を上げた、はずなのに。
考えてしまうのは、彼のことだけで。

私の人生、恋愛だけで決まるもんじゃない！なんて言っておきながら、私は東京大学へ進学したし、家の小さな本棚はクイズ本だらけ。
毎週水曜日の東大王は録画して毎週見てしまっている。
YouTubeのチャンネルだって毎日見てる。

私の勇気がないせいで、同じ大学に進学しておきながら話しかける勇気もなく、話しかける勇気がないのだから接点はない。
いつのまにか、彼は大学院を中退してしまった。

たまにすれ違うことはあったけれど、相手は知らんぷり、もう顔も見たくないのだろうか。
一度、自分が振った相手なんて。

同じサークルに入ることもできなかった。
どこで何をしているか、分かりきってる人なのに。
異国の遠い王子様みたいだ。
私はちっぽけな村の村娘。身分も違えば、住む世界も違う。そんな感覚。
会いに行こうと思えば会いに行けた、仲良くなろうと思えば仲良くなれた。

でも、そんな勇気私にはなかった。

そう思いながら毎日毎日研究室に入り浸る。
そんな私は阿呆だってこと、とっくにわかってる。

神様、なにかきっかけがあれば、そう、なにかきっかけがあれば変われるんじゃないかと思ってたんです。
たとえば、たまたまぶつかっちゃうとか、ハンカチ、拾ってもらっちゃうとか。
そんなこと、なかったけど。

そう思うほど、彼との距離は遠くなる。

手元に残された変わっているかどうかわからない連絡先にさえ、連絡もできないまま。