第七十六話 ページ26
「……分かったわ。じゃあ、私はここで待ってるわね。えっと……少し離れたところに大きな時計があるのが見えるわ。」
『ああ、あそこか。分かりました、今から向かうんでそこから動かないでください。』
電話を切った後、辺りは再び静寂に包まれた。
また桜哉に迷惑をかけてしまった。気をつけなくてはいけないと思っていたのにまた失敗だ。上手く行かない事ばかりだとAは肩を落とした。
静かに溜息をつくと少し背中を丸めて俯く。
下ろした長い髪が風にふかれて小さく揺れている。
瞳を閉じて深呼吸をしてみれば、心なしか気持ちが落ち着いてくるのを感じた。
瞼の裏の暗闇の中、思い浮かぶのは他でもないクロの姿だった。
これからどうすればいいのだろう。
唯一の希望であった彼の力を借りられなくなってしまうとなると、本当に自分一人で何とかしなければならない。
もとより一人で何とかしよう、と考えてはいたがもしもの時の為に椿を止められるような存在がいて欲しいのだ。先生がいなくなった今、Aが頼ることが出来るのはクロだけであった。
Aの中にどうしようもない焦りばかりが募っていく。
どれくらいそうしていたのだろうか。
ぐるぐると頭を悩ませているうちにAは時間の感覚を失っていた。
すると、どこからともなく近付いてくる足音に気がついて瞼を開く。
少し視線を右前方に向けてみると、こちらへ向かってくる桜哉の姿が見えた。
「すいません、遅くなって。目閉じてたから寝てるのかと思いましたよ」
「ちょっと考えごとをしていたの。私の方こそごめんなさい、わざわざここまで迎えに来てもらっちゃって」
ベンチから腰をあげると桜哉と共に歩みはじめた。
ホテルまでの近道として、このまま公園の中を通って行ったほうが早いとの桜哉の判断で静かな園内を進む。
Aの数歩前を歩く桜哉の後ろ姿を眺め、少しの決心をすると口を開いた。
「ねぇ桜哉、ちょっと聞きたいのだけれど……」
「なんですか?」
「……城田真昼ってあなたのお友達?」
桜哉は静かに立ち止まると、Aの方を振り返る。
「……どうして真昼のことを?」
「今日、その真昼に会ったの。桜哉の名前を出したら彼も反応して……桜哉のことを“大切な友達”って言っていたの。」
桜哉は少し俯き、何か考えているようだったがその表情からは何を考えているのかは分からなかった。
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サキ(プロフ) - こちらの小説ってもう更新されないんですか? (2018年5月3日 13時) (レス) id: 21861887f2 (このIDを非表示/違反報告)
日和 - はい!私生活に余裕が出て、暇があったらぜひ更新してください! (2016年8月20日 22時) (レス) id: 40ecd8018d (このIDを非表示/違反報告)
はちくま(プロフ) - いなさん» コメントありがとうこざいます、ちょっと今私生活がバタバタしておりますのでもう少々お待ちいただけると幸いです、すみません……コメントいただけて嬉しいです、頑張りますね! (2016年8月3日 7時) (レス) id: 5e438ae83b (このIDを非表示/違反報告)
はちくま(プロフ) - 日和さん» コメントありがとうございます。楽しんでいただけて何よりです。ちょっと今私生活がバタバタしておりますのでもう少々お待ちいただけると幸いです、すみません…… (2016年8月3日 7時) (レス) id: 5e438ae83b (このIDを非表示/違反報告)
いな - ずっと待ってます!更新頑張ってください!!応援しています!続きが楽しみです! (2016年8月2日 23時) (レス) id: 1536a576c8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はちくま | 作成日時:2015年5月21日 5時