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それから少しして、私とご主人様はあの街に出かけた。ご主人様が知り合いに頼んで作ってもらったというクリスマスローズの花束を持って。花言葉は『追憶』と『慰め』。
潮風に白い花が揺れる。まるで少女のように純粋なその花弁に、胸が締め付けられた。
二年前、ここで殺された少女達がいた。罪のない彼女達が殺された理由など、あまりに身勝手なものなのだろう。どんな理由があっても殺されていい命なんてないと、私はそう思っていたい。どんな命も全て尊いものだと思っていたい。
「サイファ」
「はい」
「今だけで良いから、手を握っていてくれるか」
私はご主人様の顔と手を見比べた。そして優しくそっとご主人様の手を握り締める。ご主人様は私の存在を確かめるように、何度か手を握りなおした。
きっとこの世界は美しくなんてないのかもしれない。それでも、私はこの目に映る美しいものを、虚像だなんて思いたくはない。
この人がくれた色も、愛も、私は見ていたいのだ。それがただの果てのない闇だったとしても、それが貴方のくれた色で、愛だと私は知っている。
潮の匂いを混ぜた甘い風が空高くへ白い花びらと共に吹き上がった。それはまるで誰かが舞踏を踏むように軽やかで、美しかったことだけは記憶のうちに鮮明に焼きついていた。
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