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これが胸騒ぎの正体。呆然とする私をノルデ様が担ぎ上げ、横に大幅に飛んだ。瞬間、何かがめり込む音と爆発音に似た音が辺り一帯に響いた。
「白さん、どうする」
「どうするって言われてもねえ。こんな大きい異端見たことがないんだけどねえ!」
「血の香りがするな。もうすでに何人か食らったか」
胸騒ぎ、違う、これじゃない。この異端を見て胸騒ぎは確かに大きくなった。だが、何かが違う。私が感じたのはもっと大きな喪失感。
異端は苛立ったのか、もう一度大きく鳴いた。しかしそれはまるでの怒号のようでもあり、または悲鳴、嗚咽のようにも思える。負の何かがとめどなく大きくなって、果て無い茫漠な異端になった。そんな気がしてならなかった。
「ご主人様……ご主人様はどこ?」
無意識にぽつりとつぶやいた。まるでそれに誘われるようだった。私の心の中の何かがボロボロと正体を表していく。
それは得体のしれない暗闇だった。闇は私に囁く。私の中の訴えるのだ。彼は、あなたが愛した彼は、そこにいるぞ、と。
ご主人様がその中ににいる根拠なんてない。そんな根も葉もない誰かに、私は酷く心を揺るがされていた。
ご主人様は間違いなく、そこにいる。
「お願い! ねえ! ご主人様を返して!」
誰よりも優しい人。私の大事な人。私が愛した人。私を愛してくれた人。この世界よりも、ずっとずっとかけがえのない人。
貴方がいない世界は私にとっては無意味でしかない。
異端は私の訴えに唸り声をあげた。それはまるで拷問に耐える誰かの呻き声のようだった。
「ねえ! ねえ! お願い! ……その人は、私の大事な人なの!」
「サイファちゃん、もういいから! 下がって!」
周りの景色も音もすべてが虚無だった。
瞬間、ルシファー様が大きな声をあげた。声の形は聞こえず、私はルシファー様の方を見る。瞬間、強い衝撃が体を襲った。その後に感じたのは、浮遊感。何が起きたか理解できなかったが、ことに追いつくように全身に強い痛みを感じた。
景色は、そこで途切れた。
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