7 へんなやつ ページ9
だが、そんな私の思いとは裏腹に、その4989番の好中球はまだ何か話しているようで、私は内心驚く。
勿論同じ白血球として、彼らと共に戦うことはあれど、そこまで仲良しこよしをする必要性がないから、あの温厚なマクロファージとだって、今まで話したことは1度だってなかった。
だから、他の細胞と会話することは、本当に苦手でも何でもなく、ただやり方が分からなかっただけなのだ。
嫌われたくないからと、他細胞との関わりを絶ったことは、ある種非常に合理的で整合性のとれた結論であり、私は一生そうして天寿をまっとうするつもりだった。
なのに、彼は私の一の文字に噤んだ口を諸共せず、最近あった同僚の話、細菌の話など、聞いてもいないことを話し続けている。
49「それで俺言ったのよ、それ最近じゃなくて細菌だったんかーいって」
『っ、ふふ』
その様がどうしても微笑ましく思えて、つい笑いがこぼれてしまった。
そのことにハッとして手ですぐ口を抑えるが、この細胞、耳がいいのか、私が笑ったことに気づいて「やった」と朗らかに笑う。
49「笑った!へへ、そんな面白かった?」
『……ぜん、…ぜん』
49「えーきびしー!でもよかった、ちょっと元気になってくれたみたいで」
彼の腕が伸び、私の目元の涙を拭った。ほっとするような、驚くほどに優し手つき。
ちらりと帽子のつばからのぞいた隙間から、彼を横目に見れば、その瞳と目が合った。黒く澄んだ瞳は、私をとらえて離さず、なのに優しく包み込んでくれるようなおおらかさを感じる。
彼には何か、惹かれるものがあった。
私が重苦しい口を開けようとした時、彼の帽子に備え付けてあったレセプターが反応した。
49「やべ、そろそろ行かないと。」
その音にすくりと立ち上がった好中球を目で追うと、彼は私を見下げてにかっと笑う。
49「それじゃあまたねAちゃん!よかったら今度は君の話聞かせてね!」
そう捨て台詞を吐いて、即座に駆け出していく好中球の後ろ姿を見ながら、何故か上がっていた口角に気がついた。
『へんなやつ』
その言葉に、多少の嬉しさが滲み出ていたことは、きっと勘違いに違いない。
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まみむのめ(プロフ) - 結(むすび)さん» はじめまして!コメントありがとうございます!結構時間をかけて作ったものなので、そう言って頂けてありがたいです! (2021年6月5日 1時) (レス) id: 7de2b213c2 (このIDを非表示/違反報告)
結(むすび)(プロフ) - コメント失礼します、、!最後まで読ませていただきました。作者さんの文章の書き方も設定を細かく考えている所も、キャラとの関係性も、主人公ちゃんのイラスト等も、何もかも素晴らしかったです!素敵な作品をありがとうございます、、 (2021年5月18日 18時) (レス) id: 0ce8940541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まみむのめ | 作成日時:2021年3月5日 16時