24 初恋 ページ26
『好きな人がいるんだ』
その言葉に、一瞬時が止まったような感覚がした。一定のリズムで動いていた脈が、どくどくと速まる音がする。
まさか、あのかっこよくて強いAさんが、私にそんな話を切り出すとは、夢にも思わなかった。
しかし、私は大方その意中の相手とやらの見当はついているつもりだったから、誰だろうとあえて知らないフリをする。
だが、私が大根役者だったせいで、からかわれたと思ったらしいAさんは「もう」とだけ言って私の頭を小突いて苦笑した。
『あれは、まだ、私がまだまだリンパ芽球だったころの話なんですけど』
そう言ってAさんは、何か懐かしむかのように空を見上げる。
どことなく赤らんだ頬をさすって、またひとつ笑みを零した。
『相手はとっても元気な男の子でね、正義感の強い子だったの』
赤「それは……骨髄球の…ですか?」
答え合わせをはやる気持ちを抑え、そう相槌を打つ。
すると、Aさんは、一瞬考えるような素振りを見せたが、ふるふると首を振って私の言葉を否定した。
『ううん、たしか、私と同じ、リンパ球の子だったと思う』
赤「え…?」
驚いた。
いや、たしかにそれは当然の事だった。
ここは体の中。日々37兆個もの細胞達が働いている場所。
そんな状況下において、最近出会った意中の相手らしい異性が、まさかとうの昔に会っていた初恋の人物だったなんて、奇跡的な確率でしかない。
それは現実的で、当然の話。
しかし、その現実を目の当たりにした途端、私は少なからずもショックを受けてしまった。
もしこれをあの人が聞いていたらどうしていただろう。くるりと周りを見渡すが、彼らしき人物が周りに見当たらないことに安堵して、ほっと息をついた。
『?どうかした?』
赤「あ、い、いえ!続けてください!」
私の異様な慌てように、不思議な顔を浮かべるAさんに手を振って、話の続きを促す。
本当に、彼がここにいなくてよかったと心から安堵した。
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まみむのめ(プロフ) - 結(むすび)さん» はじめまして!コメントありがとうございます!結構時間をかけて作ったものなので、そう言って頂けてありがたいです! (2021年6月5日 1時) (レス) id: 7de2b213c2 (このIDを非表示/違反報告)
結(むすび)(プロフ) - コメント失礼します、、!最後まで読ませていただきました。作者さんの文章の書き方も設定を細かく考えている所も、キャラとの関係性も、主人公ちゃんのイラスト等も、何もかも素晴らしかったです!素敵な作品をありがとうございます、、 (2021年5月18日 18時) (レス) id: 0ce8940541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まみむのめ | 作成日時:2021年3月5日 16時