いっしょにいこうね ページ28
ガッ、と凄まじい力で腕を、足を掴まれる。塗りつぶされたように真っ黒な腕からはシュウシュウという音がしていて、鼻を突くような異臭も放っていた。
「嫌ああぁ！！」
「な、なんだよ、どうなってんだ！？」
「なにこれ、なんなのこれ！！」
「ひ、引きずられる……！！」
どうやら、S達や親友には黒い腕は見えないようだった。何とかその場に踏ん張ってみるが、それを嘲笑うかのように身体はズルズルと扉の方向へ引きずられていく。
「っハスター、ハスター！どうすればいい！」
ナワーブは叫ぶ。S達や親友がいる中だが、そんなことすら気にも止められないほど、ナワーブも取り乱していた。
影響を受けやすかったのだろう親友は力が抜けているのか、S達よりも早く引きずられていく。
このままでは親友が危ない。
«ナワーブ»
「ハスター……！」
«一人だ»
脳内で聞こえるハスターの言葉に、ナワーブの思考が停止する。一人。一人とは、なんだ。嫌な予感がする。
«この中で一人、助ける者を選べ»
「っ他の奴らは……」
«無理だ»
「なんでだよ！アンタ神なんだろう！？」
«神といえど、其方を依代にしている我に本来の力はない。加えて、この怨みの強さ。其方ともう一人で精一杯よ»
「そんな……」
ガタン、と音がした方向へ顔を向ける。バランスを崩したMが倒れたのだ。倒れた拍子に力が抜け、これ幸いと凄まじい勢いで扉へと引きずり込まれていく。
「嫌ああああぁぁぁ！！！」
甲高い悲鳴と共に、Mが扉の中へと吸い込まれて消えた。吸い込まれた直後、先程聞こえた声よりも恐ろしい悲鳴がけたたましく響く。
«決めよナワーブ。時間は残されてはおらぬぞ»
ガチガチ、と恐怖と混乱で歯を鳴らしながら見回す。半狂乱になったSとRは意味の成さない言葉を並べながら暴れており、Eは光の失った目でゆっくりと扉の方向へ引きずられていく。
最後に、親友を見やる。彼は、顔色を悪くしつつも意地でもその場に踏ん張るように身体を後ろへと反らしていた。そのお陰か、S達よりも引きずられていく速度は落ちている。
«ナワーブ»
ヒュウ、と息を吸い込み、ナワーブは、腕を伸ばした。
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作者名：百日草 | 作成日時：2020年10月12日 19時
