巻き込んできたのそっちだしな ページ17
「そういえば……」
ハスターの手作りサンドウィッチにかぶりついていたナワーブは、ふとあの女の霊を思い出した。
「アイツ、結局どうしたんだ？」
あまりにもハスターの対応も、自身の部屋もいつも通りだったために、ナワーブは忘れかけていた。うねうねと蠢く触手が器用に皿を洗っている。その触手が洗い終えた皿を布巾で拭いながらハスターが答える。
「元の場所へと戻した。あの怨念がどのような経緯を辿ったのかを見てからな」
「元の場所へって……」
ナワーブの脳裏にあのクラスメイトの男が過ぎる。ハスターに目を向けると、ハスターは頷いた。それだけで答えは出ている。
「でも、経緯を辿るってどういうことだ？」
「簡単なことよ。彼奴の過去を見た」
「過去……」
なんでも、あの女霊はクラスメイトの男と五年間付き合っていたらしく、将来の約束もしていたらしい。しかし、待っていたのは幸せではなく男の裏切りだった。
男の浮気だった。しかも三年前から浮気相手と付き合っていたらしい。女霊は悲しみに暮れ、男に早く別れてくれとお願いしたそうだ。だが、男は反省するどころか女霊のことを罵倒し、惨たらしく捨てた。
女霊は絶望し、そして男を憎んだ。女霊は二年を掛けて男を呪い、自決。そのまま怨念となり、男に取り憑いていたらしい。
「でも、何で俺に来たんだ？」
「アレは怨みの念が強すぎたのだ。強すぎる怨みは、やがて自身さえ呑み込む」
「……つまり、誰でもいい状態になってたってことか？」
うむ、とハスターが頷く。ハスター曰く、自身のことが見えるナワーブを標的としたらしい。ナワーブにとってはいい迷惑だ。
「でも、元の場所に返すって……大丈夫なのか？」
「それはあの男の身か？それとも其方か？」
「俺」
「安心せよ。アレの意識は戻した。其方にはすまないことをしたと謝っておったぞ」
霊に謝られるとは。思わず遠目になってしまうナワーブである。
しかし、とハスターがナワーブを見つめてくる。
「なんだよ」
「いや、意外だと思うてな。あの男の身を案じはせぬのだな」
「いや別に……親しいわけじゃねえからな」
愉快そうにハスターは目を細める。
一見薄情かと思われそうな考え方だが、キッパリとしているところがハスターがナワーブを気に入っている理由の一つでもある。
だがその分、懐に入れれば甘くなるのがナワーブ・サベダーという男だ。
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作者名：百日草 | 作成日時：2020年10月12日 19時
