知らない、なのに〜女主視点〜 ページ21
「柚子ちゃん…」
やってしまった
これだけは知られちゃいけなかったのに
たとえ、ナノ君や空君でも…それなのにらむ先輩の前でもとか…
『あ、はは…すいません、なんでもないです』
「なんでもないわけないだろ」
らむ先輩の言葉にぐっとつまる
どうしよ…これはヤバいぞ
物凄くヤバいぞ
「ここに…なにかあるの？」
『っ！？』
ナノ君に肩に手を伸ばされて思わずバッと離れる
ちょっと過敏に反応しすぎた
どうも警戒し過ぎていたようだ
これでは反対に怪しまれるだけ…
2人とも目を見開いている
『…す、すいませんっ私、今日は…っ』
意味不明なことを言って走り出した
こんなことしても意味がないことくらいわかっている
でも今はほかに思いつかなかった
『部屋は…空君と天月さんがいるから…』
今戻ったら確実に怪しまれる
となったら行く場所は…
『おー…相変わらず』
さわさわと風が吹いている
ずっと来ていた月がよく見えるこの場所
手すりに背中を預けて座り、左腕の袖をまくる
シャツに血が着いて真っ赤になっていた
こんなに血が出ていたのか…気付かなかった
『うわっ…』
傷口を見るとクッキリと爪が食い込んだ痕
流石に苦笑いがもれる
“その肩の傷…いつ付いたか知ってる？”
知らない
知らないんだ
気付いた時にはもう左肩にあった
それなのに…
“僕…知ってるよ？もちろん姫歌ちゃんも”
なぜ貴方たちが知っているんですか？
私も知らない傷のこと
“あともう一つ…君達、いつまで仲良くしていられるだろうね…？”
それはどういうことですか？
誰かが裏切るとでも言うんですか？
聞き返したかった
でも口が上手く動いてくれなくて…
『本当、嫌になる』
そのまま、そこで眠ってしまっていた
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