秋の夜長には ページ24
私が向かった先は、カブーの谷だった。口から息を吸っては吐いてを繰り返していたため、喉が炎症を起こしたように痛い。乾燥する季節を舐めきっていたみたいだった。苦しさから息を吸えば、喉に痛みが走り咳き込み、また苦しくなる。そんな負のループに陥りながらも、私の足は着実に目的地へと進んでいた。
もう空は暗い。日照時間が減り、夕飯ごろには既に日が沈んでしまっている。その眺めを横目に、松明の炎が揺らめくカブーの谷が見えてきた。そして、その前に佇むはピンク色の彼。右手に抱えているのは風呂敷包み。その光景を見て、心臓が嫌に高鳴った。
「カービィ!」
「……ぽよぅ」
彼に向かって思わず声をかけると、ゆっくりと彼が振り返る。その表情は悲しみに満ちていて、後ろめたい感情もあり……といったような顔だ。彼に近づいて、目線を合わせるようにしゃがみこむ。深緑の上着が、穏やかに風に揺れた。
「カービィ。帰ろう? みんな、貴方を待ってます」
「……ぽよ、」
でも、と目尻を下げて私を見上げる。その瞳に、涙らしい小さな光が段々と溜まってくる。みーんな、貴方のことが大好きなのになぁ。ましてや、大嫌いになることなんてありえないのに。
「おいカービィ‼」
一際高い声が上から聞こえてきた。その声の主はトッコリ。傍迷惑だと言った態度で、カービィの額を一突きする。どうやらフームに一喝され、その勢いでカービィを捜索する羽目になったらしい。嫌味ったらしい言い方で言うそれはカービィには十分だったようで、途端にお昼に見せたような笑顔をたちまち取り戻し村へと走り出した。
「ここに来てから一年か。早いものだな」
「卿!」
炎の燃える音が、静かな谷に響く。優しい声が聞こえて、後ろを見やれば彼がいた。彼の黄色い瞳が、静かに光を放っていた。
「彼を後押ししようと来ていたのだが……どうやら心配無用だったらしいな。」
「え……」
木の上にいたらしい彼が私の隣に降り立つと、かしゃりと金属音がぶつかり合う音がした。もう時間帯は夜だ。しかも村の人達は彼をお祝いするために丘に向かっているため、家の明かりも殆どついていなかった。静かな夜には星々が光り輝き、鈴虫の声が響いてくるのみ。久しぶりに聞いたなぁ。この中で寝たら、さぞゆっくりリラックスして眠れるんだろうな。そんな事を悠々と考えていると。
「そういえばそなたは、ここに来る前……いや、元の星にいた頃は、何をしていたのだ?」
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Taruru(プロフ) - 武藤さん» コメントありがとうございます!お褒めのお言葉ありがとうございます、今までに一番力を入れて書いている作品なのでコメント頂き本当に嬉しいです! これからも更新を頑張って行こうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。 (2018年7月23日 22時) (レス) id: d72b270231 (このIDを非表示/違反報告)
武藤(プロフ) - 初めまして!感想が山ほどありすぎて、全てをお伝え出来ず本当に申し訳ない…ここまで心を揺さぶられ、締め付けられる作品に出会えたのは初めてです…本当にありがとうございます…! (2018年5月22日 0時) (レス) id: 957024adf4 (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - Lavenさん» Lavenさん、コメントありがとうございます! 返信遅れて大変申し訳ありません……小説を閲覧頂きとても嬉しいです。これから本格的に終わりに近づいていきますが、頑張って更新をしていこうと思います! 応援ありがとうございます。 (2018年3月17日 16時) (レス) id: c1df570a9b (このIDを非表示/違反報告)
Taruru(プロフ) - 東方&カービィラブさん» コメントありがとうございます! 受験は無事終わりましたので、更新は定期的にできるようにはなると思います! もう物語も終盤ですが、どうぞ最後までお付き合い頂けると嬉しいです。 (2018年3月17日 16時) (レス) id: c1df570a9b (このIDを非表示/違反報告)
Laven - Taruruさん、お久しぶりです! 以前に貴方様からコメントをいただきましたLavenです。いつかこちらにお邪魔しようと思っていたらかなり間があいてしまいました……。今後の展開が色々と気になり過ぎます! 今でも更新を待ち遠しく思っています、頑張ってください! (2018年3月4日 20時) (レス) id: 8121ec6dbe (このIDを非表示/違反報告)
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