吸血鬼さんと人間さん【kzh】

・バレンタイン ページ31

きゅっ、と袖を握って葛葉くんを隣に座らせる。



「…あのですね」



「ふっ…何？」



「やっぱ…」



そこまで言って口を閉じて黙り込む。



なんかこんなことに嫉妬してるのも小さいヤツって思われちゃいそうだし、何しろ恥ずかしいし。



やっぱなんでもない、と言おうとすると葛葉くんは私の唇をむぎゅっと指で挟んだ。



「んーっ…？」



「なんでもなくないでしょって。ちゃんと言ってみ」



「んんんっ、んん」



(葛葉くん、それじゃあ喋れないよ…)



そう思いながら視線を送ると、クックッと肩を震わせていて。



「っ、ん…」



ふにっと唇が触れると、ほんのり熱くなる頬。



指を離されてからも、何度か口付けは続いた。



「ん……く、ずは…くん…」



一息つくと、葛葉くんが口を開く。



「はい、リピートアフターミー。"私は"」



「わ、私は…」



「"葛葉くんに渡されたチョコレートを"」



「葛葉くんに渡されたチョコレートを」



「"かち割りたい"」



「かち割りっ…ねぇ、何これ」



掛けてもないエアメガネをクイクイしながら話し出した葛葉くん。



「かち割りたくない？いいの？俺が他の人からもらったチョコ食っても」




「や、やだ。かち割る…！」



「はは、素直でよろしい」



「…私があげたやつ以外、食べないで」



素直にそう口にしてみると、葛葉くんは嬉しそうに口をゆるゆると綻ばせて私があげたチョコのラッピングを外していく。



時々美味そ、なんて呟いてトリュフチョコをひとつ取りだした。



「口開けて」



「え？」



「いいから」



「うん…ん！」



指示された通り口を小さく開けると、突然口の中に甘さが広まる。



「む…これ葛葉くんにあげたやつ…」



「いーから。俺も食べる」



「ん、食べてみっんぅ…！？」



てっきり、箱の中のチョコを食べると思ってた。



とろりと私の口の中のチョコレートを舌で絡めとって、満足気にごくり、と飲み込んだ葛葉くん。



普段は恥ずかしがってこんなこと絶対しないのに。



「あま」



「な、も、もう…！」



甘い。



チョコレートも、彼の行為も。



甘くて、溶けてしまいそうで、だけど嫌じゃない。



私は葛葉くんの指を掬い、ちゅっ、と指先に唇を落とす。



ペロリ、と熱で溶けていたチョコレートを舐めとると、目の前には顔を真っ赤にした葛葉くんが。



「ぶふっ…！顔真っ赤！」



「うるせぇ」



ハッピーバレンタイン、葛葉くん。

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