11 ページ11
｢…っ！？｣
浮遊感のような、空間が歪んだような、そんな感覚に思わず息を飲む。なんだ今のは。口元に手を当てつつ、その場で立ち止まった。
そこに聞こえる、チーノの声。
｢…あれ、どうかした？｣
｢いや、何でもない……｣
咄嗟に取り繕ろうと声をあげながら、彼の方に視線をやり、口を噤んだ。いや、半分は息を飲んで声が出せなかったと言った方が正しいか。
｢…ふふ、信じられへんって顔してんな。まあ、無理もないとは思うけど｣
｢……｣
落ち着け、まずは平常心だ。自分に言い聞かせつつ、静かに深く息を吐いた。いつも兄さんから教えて貰っていただろう、まずは冷静に。Aはゆっくりと身体をチーノの方に向けた。
｢あー、うん。まずは一発殴って良いかな？｣
｢思った以上に強気で草やねんけど｣
｢こっちも学友だと思ってたのがバリバリに人外で草なんだけど？｣
｢過去形にせんとって！地味に傷つくから！｣
彼をまじまじと見つめる。何故今まで気づけなかったのだろうか。…彼は妖怪だ。
そして先程の空間の歪む感覚。辺りを見渡し、確信する。ここは人ならざるものの世界だ。つまり今、自分は神隠しにあっている。
一対一。相手に名前も知られている。そしてここは相手の領域。言わずもがな、まずい状況だ。
｢俺、化けることだけは自信あんねん。気づかんくてもしゃーないから気にせんでええで。あ、あとA。これ持って？｣
渡されたのは懐中時計だった。少し鈍い金属光沢から、使い込まれていることが伺えた。
｢…これは？｣
｢察してるとは思うけど、ここ現世ちゃうからさぁ。Aが他の妖怪に人ってバレへんように、俺のモン持ってて欲しいねん｣
｢…ん、分かった｣
少し重みのあるそれを首から下げる。微妙な長さのそれが胸元とも腹の上とも言えない位置でゆらゆらと揺れた。
｢あと、ここに誰か呼ぼうとしても無理やから。もう少し俺に付き合ってな｣
ポケットの中、薄桃色の御札に無意識にそっとふれる。心配してくれていたロボロの言葉をもっと真摯に受け止めていれば…と、今更後悔しても詮無き事だ。
｢誰か、というより特定個人だよね、それ。…ふーん。この前とか、見えないフリしてたんだ？｣
｢トゲが！言葉にトゲがあるよ！黙ってたんは謝るからさぁ！もっと俺に対する優しさちょーだい！？｣
いつも通りの彼の様子に、少しAは苦笑した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 937人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にゃーちゃん - 初コメ失礼します！めちゃくちゃ面白いですッ…!!!もう…好き(語彙力皆無)htrnのモンペ具合が好き過ぎるんだよなぁ…(( 更新頑張って下さい。楽しみにしてます！ (2023年2月28日 0時) (
レス) @page45 id: fd6863f2a6 (このIDを非表示/違反報告)
ビビ - 私にどストライクの作品です！！更新頑張ってください！！ (2021年11月1日 0時) (レス) id: 23a9beafd0 (このIDを非表示/違反報告)
鶏太郎(プロフ) - ソウさん» ソウさん、コメントありがとうございます！ゆっくりとですがじわじわ更新しております！今後ものんびり待っていただけると幸甚です！ (2021年3月24日 0時) (レス) id: 1d5de77dd0 (このIDを非表示/違反報告)
ソウ - 初めまして！前からこの作品を読ませてもらっていたのですが、やっぱり面白いですね！今後の更新も楽しみにしています！ (2021年2月26日 7時) (レス) id: 41f6688bcf (このIDを非表示/違反報告)
鶏太郎(プロフ) - 田中さん» 田中さん、ご指摘ありがとうございます！会話文中にw等を使っていたのは、｢動画内の彼らのテロップに寄せた方が、脳内再生余裕かな？｣と判断していたためです。自身でも悩んでいた部分でしたので、大変参考になりました！次回からちょっと試してみますね！ (2020年9月2日 19時) (レス) id: 10d9e4ee33 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鶏太郎 | 作成日時：2020年8月28日 23時
