21話 ページ23
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何をどうやって残そうかって当てもなく音楽ショップをウロウロしていた時に、初音ミクを見つけた。
こざっぱりしたパッケージに可愛い女の子のイラストが載ってて、隣に貼ってあったPOPに、《あなたもミクに命を吹き込もう!》と書いてあったのを今でも鮮明に覚えてる。
その前から初音ミクっていうソフトがあることは知っていたけれど、ふーん機械かーみたいな感じで正直全く眼中になかった。
一つ命を作ったら、一つ命を壊しても許されるような気がした。
俺の命の代わりにこの子に命を吹き込もう。
そんな馬鹿げた理由でボーカロイド に手を伸ばしたんだ。
その時に作ったのが
【COMMUOVERE】
俺の遺書見たいな気持ちで作った曲。
これが俺の作る最初で最期の曲の筈で、この曲を投稿したら本当に死ぬつもりだった。
でも、
作り終わった曲を聴いた瞬間、声を上げてパソコンの前で一人泣いてた。
俺の曲を歌うミクの声があまりにも優しくて、可愛くて愛おしくて、馬鹿みたいにボロボロ泣いてしまった。
あぁ、死にたくないな
もっと曲を作りたいな
もっとこの子に歌って欲しいなって
そう思った。
今ならわかるけど、きっと俺は何かに縋りたかったんだと思う。
...何かに救われたかったんだと思う。
それから俺は死ぬのをとりあえずやめて、数えきれないくらい曲を作った。
それを投稿したら、びっくりする程沢山の人に聞いてもらえて、CD作りませんか?って言ってもらって、色々な所で作曲させてもらって今の俺が出来た。
いつの間にか死にたいなんて思わなくなっていた。
命を吹き込んでやろうって思って手を伸ばしたボーカロイドだったけれど、命を吹き込まれたのは俺の方だった。
生かしてもらったんだと思った。
だから俺、初音ミクが大好きなんだ。
命の恩人だから。
そう言ってAはふわりと笑った。
全てを話し終えたAは
喋りすぎて乾ききってしまった舌を潤すように、グラスに残った液体をぐっと飲み干した。
もう誰も
飲み物を注ごうとはしなかった。
僅かに残った氷が、カランと小さな音を立てて鳴った。
その密やかな音が俺たちの静謐に響いたきり、部屋は静寂で満たされていた。
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ゆきうさぎ - コメント失礼します。作者様の負担になるようでしたら話は別ですが、僕は皆でハッピーエンドが良いと思います。 (2020年9月20日 1時) (レス) id: f935ff1209 (このIDを非表示/違反報告)
あお - 個人的にはhappyendが好きなのでhappyendが読みたいです…! (2020年6月15日 18時) (レス) id: 57a51dc74d (このIDを非表示/違反報告)
匿名主(´・∀・`) - 初めまして、失礼します。個人的にはhappy endが良いんですが…一回何らかの endで完結させてしまって、その後に場面分岐的な終わり方にすれば良いのではないか。と考えております。作者様に負担が掛かってしまいますし、上からで申し訳ないんですが…考えて頂ければと (2020年6月13日 21時) (レス) id: 610e5b95f1 (このIDを非表示/違反報告)
ペン - 初めまして、今日は。 秘かに読まさせて頂いてます。今更なのですが、 happyendが良いと思ってます。体調に 気を付けて更新頑張って下さい。 (2018年6月24日 11時) (携帯から) (レス) id: c5e8935b6a (このIDを非表示/違反報告)
にょむさん - 個人的にはHappy Endがいいです! (2018年6月17日 22時) (レス) id: c18b2f6fe2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紺碧 | 作成日時:2017年12月3日 21時