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「坊ちゃん!」
意味の無いノックの後、
寝起きだと分かる健二郎が
部屋に飛び込んできた。
「車、回してこい!」
……ちょっと待ってよ、
バタバタと支度をする彼は、
一向に私に説明することも、
振り返ることもしない。
「待って!どうして?
どうして こんな夜中に、急に帰るんですか?
明日の朝じゃ駄目なんですか?」
今の電話、
どうして?
どうして、あの人に呼び出されたからって
こんな夜更けに帰らなきゃいけないの?
東京まで、何時間もかかるのに?
「……私は?私はどうしたら、、」
「ごめん。仕事なんだ。」
………嘘でしょう?
こんな夜中に、どんな仕事があるっていうの?
あの人に、会いに行くんでしょう?
彼の背中が、急いている。
あの人の所へ行こうとしてる。
私を置いて…。
「…………やだっ!
やだ!行かないでっ! 此処にいて!」
あの人の所へは行かないで!
「A、、」
ビックリした表情の彼が、
……やっと、振り返った。
「やだっ、、剛典さん!
お願い、…行かないで。
私と此処にいて、、」
それは、初めて口にする、我儘。
聞き分けのよかった妻が、
初めて夫に言った、我儘。
ベッドへ座る私の膝元へやって来た彼は、
キュッと膝にある私の手を握り、
「A、ごめん。急用なんだ。
俺は、先に戻るけど、
君は、明日ゆっくり戻って来るといい。
広臣に 迎えに来るように言っておくから…
気をつけて戻っておいで。」
顔を覗き込むようにして
そう言った後、
私の髪を 愛想程度に撫でてから 立ち上がった。
「そんなの嫌っ、」
追いかけるようにして
彼の背中にしがみついた私の手を、
「A、困らせないで、、
ごめんね、急いでるんだ。」
優しく振りほどき…
「……哲也、後、頼んだよ。」
いつの間にか 部屋の扉の前に立っていた哲也に
私を託し、彼は足早に去っていった。
置いて行かれた…、
途方もない孤独感が私を襲う。
彼の背中を見つめながら
涙が零れ落ちた。
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花(プロフ) - りょうちさん» そうなのー。今書いてるの書き始める前かなー?読み返してくれたんですね!ありがとうございます(*´▽`*) (2017年9月13日 16時) (レス) id: 4e300b94c6 (このIDを非表示/違反報告)
りょうち(プロフ) - 花さん!いつの間に更新してたのよー!嬉しいサプライズだよ(*^▽^*) (2017年9月13日 15時) (レス) id: e6319aab1f (このIDを非表示/違反報告)
花(プロフ) - らりるれろんさん» ありがとうございます(*^^*) (2017年8月31日 7時) (レス) id: 4e300b94c6 (このIDを非表示/違反報告)
らりるれろん(プロフ) - そうですよね(^^;臣隆のお話も読ませていただいてますよ(^^)楽しみです!あっ!遅くなってしまいましたがお子様お誕生日おめでとうございます*\(^o^)/* (2017年8月31日 4時) (レス) id: 4dde80cde4 (このIDを非表示/違反報告)
花(プロフ) - らりるれろんさん» PowderSnowはもうこれで終わりです。 (2017年8月30日 17時) (レス) id: 4e300b94c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花 | 作成日時:2016年11月19日 22時