春の向こう側で、きみを待つ

𓂅 ページ10

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『……みんなにとっては酷な願いごとになるよ。

それでも、聞いてくれる？』






念を押すように。

確かめるように聞いたアーヤの顔は、真剣そのもの。




酷な願い。

それでいい。それがいい。



僕らの罪が清算されることは

これから先、絶対にないだろうけれど。


でも、それでも

きみの願いはなんだって叶えたい。






「……ああ、いいぞ。

アーヤが希(ねが)うなら、なんだって叶える」







僕らにできる、

最大の償いだと、思うから。





若武の言葉に、アーヤは心底安堵したような。

それでいて、ほんの少し悲しみが混じった笑顔を見せた。








『じゃあ、まずひとつめ。

……わたしの家族に。
パパに、ママに、お兄ちゃんに、奈子に、

渡してほしいものがあるの』







それは、言葉通りの、酷な頼み事だった。


だって、アーヤのあの一件以来、僕たちがアーヤの家族に顔を合わせたのは、お葬式の時だけだったから。



……責められるんじゃないかって、馬鹿げた考えを持っていた。

それに、アーヤが僕らに対しての恨みつらみを、家族に対して何か話しているんじゃないかと思って。

それを人伝に聞くのが、こわかったから。



そんな、アーヤの家族に、渡してほしいもの。




こわい、けど。


僕らがきみにしてしまったことを考えれば、

アーヤの家族に恨まれるのは、憎まれるのは


嫌われてしまうのは、当たり前だ。




でも、それでも。






「……うん。わかった。

何を届ければいいの？」







……僕らはきっと、

前に進むキッカケが、なんでもいいから欲しかったんだ。



罵倒でも、叱咤でも、励ましでも、なんでもいい。


ただ、顔を上げろと。

いい加減前を向けと。

恥ずかしくないのかと。




そんな風に、否が応でも現実に向き合わせてくれる何かが、欲しかった。




傲慢だ。勝手だ。自分本位すぎて吐き気がする。


アーヤが死んだことに対しての負い目を感じているくせに、その負い目から逃れることを拒否しているし、逆にその負い目を負い続けながら救われることも望んでいる。



矛盾している。

アーヤの意志とは相反している。



わかったうえで、わかっているうえで、知ったうえでまだこんな愚考をしてしまっているんだ。





ねえ、アーヤ。

空の上から見ていたのなら、こんな僕らも知っているよね。




だったら、アーヤはどうして

こんな醜く愚かな僕らを助けようとしてくれるの。






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