春、さいかい ページ8
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「あら。お久しぶりですね、みなさん」
『……お久しぶりです、島崎さん』
アーヤの要望通り、若武の家にやってきた。
島崎さんは、いきなり来た僕たちに驚きはしたものの、1年前と同じように笑顔で出迎えてくれた。
そして、そんな島崎さんに、見えていないのに挨拶をするアーヤ。
とても懐かしそうな。
それでいて、寂しそうな笑顔を浮かべて。
『へえっ、内装もあの頃のまま変わってないんだ〜。
意外。てっきり変わってるものとばかり思ってた』
きょろきょろと、物珍しそうにあたりを見回すアーヤ。
あの頃と、なにも。
なんにも変わっていない顔で、表情で、笑顔で
微笑まれてしまえば、僕らが何かを言える道理なんてなかった。
『んー、来たはいいけど何したらいいんだろ。
せっかくだし、近況報告でもする?』
陰鬱な雰囲気を纏う僕らとは違って、アーヤは生前持っていた温かさを、明るさをそのままに笑う。
それがどれだけ、僕らにとって安心できるもので、なおかつ眩しいものであったのかは、アーヤはきっと知らないだろう。
「近況報告、か……」
「……お前ら、なんか、ある?」
上杉の言葉に、重苦しい沈黙が落ちる。
それはそうだろう。
みな、日々を常に諦観して生きている。
生きているだけで、日々を過ごすだけで、精一杯だったのだ。
『……そっか。じゃあ私から話してもいい?』
ぴくり。全員の肩が、眉が、瞳が、手が、震えた。
ああ、僕らは一体、何を言われるのだろう。
アーヤから、なんて────
『あの世のことは、実はカミサマから話すの禁止されてるから言えないんだけど、みんなのことは、見てたよ』
空の上から、ずっと見てた。
その言葉に、僕らは全員固まった。
ああ、僕らの醜態を。
惨めな姿を、見ていたのか。
『……みんな、見るにも絶えない姿だったから、会いに来たんだ』
柔らかい声ではなく、淡々と。
ただ事実を述べているかのような、声音だった。
……けど、それに込められた裏側を、僕らは考えてしまう。
僕らに軽蔑している?それとも失望?
もしくは、もっと別の何かを────
『……みんなが私のせいでそうなってしまった、
その責任を取るためにね』
そう、静かに落とされた言葉に、
涙が出てしまいそうなほど、胸が詰まった。
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A - 完結おめでとうございます!掲載当初からずっと追ってきた作品で、毎日更新されていないか確認するぐらい大好きな作品です。本当に完結おめでとうございます。ここまでおつかれ様でした。そして、こんなに素敵で感動する、最高の作品をありがとうございます!! (8月4日 12時) (レス) @page50 id: 6c0c6ff6b3 (このIDを非表示/違反報告)
レイ - 完結おめでとうございます。主さまの書かれるどこか儚いような、綺麗でどこか切ない文章がだいすきです。 (8月3日 17時) (レス) id: 39b04079dd (このIDを非表示/違反報告)
ユメ - 完結おめでとうございます🎊私も天奏さんと同じでたくさん泣きまくりました。「春の向こう側で、きみを待つ」やあとがきで伝えてくれたことはとっても大切で、この話を読んで改めてまた、しっかり生きようと思わせてくれました。本当に天奏さんはすごいと思います! (8月3日 15時) (レス) id: 6ccf209779 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ - わかりました!あと土下座はしないでくださいね。こっちまで申し訳ない気分になるので! (8月1日 12時) (レス) @page42 id: 6ccf209779 (このIDを非表示/違反報告)
天奏 - ユメさん» たいっへん長らくお待たせしてしまって土下座したい気分です有言不実行な作者ですみません……。あと一話更新したのち、完結まで突っ走れると思います!これはほんとです!!あともう少しだけ、彼らのお話に付き合ってもらえるとありがたいです。 (8月1日 9時) (レス) id: 9f30b1fbf3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天奏 | 作成日時:2022年6月9日 16時