春、ちかい ページ44
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────さあっ、と。
桜の混じった風が吹いた。
『────待ってたよ、みんな』
火曜日。終業式。最期の日。
学校が終わってそのまま、僕らは
アーヤに指定された桜が近くにあるお墓の前にいた。
桜は満開を過ぎ、
すでにほとんどが散ってしまっている。
立花家のお墓の正面に立った瞬間、
まるで最初からそこにいたかのように、
突然アーヤの姿が現れた。
ここで出逢った時のように、
お墓の前に揺らぐことなく立っている。
『……じゃあ早速、みんなの答えを聞かせて』
そう言われて、みんなで顔を見合わせてから、
黒木が言った。
「ねえ、アーヤ。答えを言ったら、
アーヤがなんで俺たちの前に現れてくれたのか、
それを聞かせてほしい」
そう問うと、なぜかアーヤはきょとんとして。
……けれどやがて、眉尻を下げて
困ったように笑った。
『いいけど……、つまらない理由だよ?
それでもいいなら、聞かせてあげる』
その返答を聞いて、ホッと一息ついたのち。
すう、と若武が小さく息を吸った音がした。
「───俺は、おれたちは。
後悔するんじゃなくて、あの世に逝った時、
アーヤに誇れるような生き方ができたって言えるよう
努力し続けることを誓った。
それが、俺たちにできる、最大の贖罪だ」
後悔するのは、万人にできる。
けれど、努力し続けることは、きっと、
万人にできることではないと思うから。
そう思って、みんなで決めた。
若武がそれを付け加えると、
アーヤはふわりと、やわらかく微笑んだ。
『ふふ。そっか、そっかそっかあ。
なんだか、これからが楽しみになっちゃったな』
くすくすくす。
可愛らしく微笑むアーヤは、いつまでも笑っていた。
……まるで、もう心残りなんて微塵もないみたいな。
そんな、吹っ切れた笑みだった。
『あのね。私がみんなに逢いにきた理由なんて、
たったひとつしかないんだよ』
そう、朗らかに笑いながら
何気なく落とされた、その言葉に。
『私は、───私も、
みんなに贖罪を果たしに来たんだよ』
「……え?」
僕らは、一様に目を見開いた。
『これ、一度みんなに言ったはずなんだけどなあ』
やさしく笑うその裏に、
彼女は一体、どんな想いを抱えているのか
ちっともわかりはしなくて。
『みんなを絶望の底に突き落としてしまった、
その責任を取りにきた。ただそれだけなの』
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A - 完結おめでとうございます!掲載当初からずっと追ってきた作品で、毎日更新されていないか確認するぐらい大好きな作品です。本当に完結おめでとうございます。ここまでおつかれ様でした。そして、こんなに素敵で感動する、最高の作品をありがとうございます!! (8月4日 12時) (レス) @page50 id: 6c0c6ff6b3 (このIDを非表示/違反報告)
レイ - 完結おめでとうございます。主さまの書かれるどこか儚いような、綺麗でどこか切ない文章がだいすきです。 (8月3日 17時) (レス) id: 39b04079dd (このIDを非表示/違反報告)
ユメ - 完結おめでとうございます🎊私も天奏さんと同じでたくさん泣きまくりました。「春の向こう側で、きみを待つ」やあとがきで伝えてくれたことはとっても大切で、この話を読んで改めてまた、しっかり生きようと思わせてくれました。本当に天奏さんはすごいと思います! (8月3日 15時) (レス) id: 6ccf209779 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ - わかりました!あと土下座はしないでくださいね。こっちまで申し訳ない気分になるので! (8月1日 12時) (レス) @page42 id: 6ccf209779 (このIDを非表示/違反報告)
天奏 - ユメさん» たいっへん長らくお待たせしてしまって土下座したい気分です有言不実行な作者ですみません……。あと一話更新したのち、完結まで突っ走れると思います!これはほんとです!!あともう少しだけ、彼らのお話に付き合ってもらえるとありがたいです。 (8月1日 9時) (レス) id: 9f30b1fbf3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天奏 | 作成日時:2022年6月9日 16時