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後悔、すみれいろ ページ39

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土曜日。晴天。誰もいない教室にて。




「あっ、おはよ立花!」


『ちょちょちょちょ、

忍、何私の名前大声で呼んでるの?!』




立花が窓辺に座っていたので挨拶すると、

それはもう必死の形相で怒られた。


せっかく挨拶したのに。




「立花がいたから……」


『だからってそんな普通に挨拶する?!

私、忍たちには見えてもいちお幽霊なんだよ?!』


「けど、そこにいたから」




なおも食い下がれば、むぐっと口を結んだ立花は

はあああ、と大きなため息をついた。




『……忍はほんと、相変わらずだね』


「それ褒めてる?」


『……うん。褒めてる』




苦笑いした立花は、でも、と

腰に手を当てると。




『絶対、ぜーったい、

人前で私の名前は呼んじゃダメ!いい?』


「……なんで?」


『忍が変な人に見えるし、

頭おかしいと思われちゃうから。

私のせいで忍が奇異の眼で見られるのは嫌だよ』


「……立花のためとか言われたら、

断れないじゃん」




ムッとしながら立花を見やれば、

なぜか眉を下げながら笑われた。なぜ。




『忍はほんと、優しいよね』


「なに、今更」


『んーん。……ほんと、会った時とは違うなって』




どこか感慨深そうに目を眇めた立花は、

瞬きをする間にパッと明るく表情を変えた。





『この一週間で、私が驚かす側じゃなくて、

驚かされる側に回ったのは初めてだよ』


「……よっしゃ」




反射的に小さくガッツポーズをすれば、

なんで嬉しそうなの、と立花は可笑しそうに笑った。




「立花、今日四限までだから、

放課後どっか寄ってかないか?」


『ええ、私何もできないよ?』


「立花がいてくれるだけで嬉しい」


『……ふふ。元引きこもりとは思えない言葉だね』


「その引きこもりを、立花が連れ出したんだろ」




すべてが、自分の世界で完結すると思っていた。


他者との交流など、必要な時、必要な場所、

必要な量でしていればいいと。


それ以上は、必要なしと、決めつけていた。


己の時間は有限で、それをどう自分にとって、

最も効率的かつ効果的に使うか。


それしか考えていなかった。


けれど、そんな狭い視野を、

少し強引に広げてくれたのは、立花だったから。




「今度は俺が、立花に見せたいものがあるんだ」




そう伝えると、ぱちくりと瞬きをしたあと、

嬉しそうに微笑んだ立花は、

じゃあ連れてもらおうかな、と快く承諾してくれた。





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設定タグ:探偵チームkz事件ノート , 切ない , シリアス   
作品ジャンル:泣ける話
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A - 完結おめでとうございます!掲載当初からずっと追ってきた作品で、毎日更新されていないか確認するぐらい大好きな作品です。本当に完結おめでとうございます。ここまでおつかれ様でした。そして、こんなに素敵で感動する、最高の作品をありがとうございます!! (8月4日 12時) (レス) @page50 id: 6c0c6ff6b3 (このIDを非表示/違反報告)
レイ - 完結おめでとうございます。主さまの書かれるどこか儚いような、綺麗でどこか切ない文章がだいすきです。 (8月3日 17時) (レス) id: 39b04079dd (このIDを非表示/違反報告)
ユメ - 完結おめでとうございます🎊私も天奏さんと同じでたくさん泣きまくりました。「春の向こう側で、きみを待つ」やあとがきで伝えてくれたことはとっても大切で、この話を読んで改めてまた、しっかり生きようと思わせてくれました。本当に天奏さんはすごいと思います! (8月3日 15時) (レス) id: 6ccf209779 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ - わかりました!あと土下座はしないでくださいね。こっちまで申し訳ない気分になるので! (8月1日 12時) (レス) @page42 id: 6ccf209779 (このIDを非表示/違反報告)
天奏 - ユメさん» たいっへん長らくお待たせしてしまって土下座したい気分です有言不実行な作者ですみません……。あと一話更新したのち、完結まで突っ走れると思います!これはほんとです!!あともう少しだけ、彼らのお話に付き合ってもらえるとありがたいです。 (8月1日 9時) (レス) id: 9f30b1fbf3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:天奏 | 作成日時:2022年6月9日 16時

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