𓂅 ページ38
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ばくん、と心臓が跳ねた。
ばく、ばく、どくん、どくん。
「なんでって、……ただ、出なかっただけ、で」
『ごめん。聞き方が悪かった。
───翼はあの時、私の葬式で、何を考えてたの?』
何を、考えてたか。
覚えていない。忘れてしまった。
───いや。違う。
おれ、は、俺は、無理やり、忘れたことにしたんだ。
「……しんじ、られなかった」
ぐっと胸元を掴んで、
俯いた先に影がひとつしか伸びていないのを見て、
また、訳もなく泣きそうになった。
「信じたくなくて、呆然としてたら終わってた。
受け入れられなくて、泣けもしなかった」
ゆっくり。
本当にゆっくりと、顔を上げる。
「───涙が出ることが、
アーヤがいないことの証明になりそうで、
……こわ、かった」
顔をあげかけて、でもどうしても顔だけは見れずに
落ちゆく夕陽を視界に収めた。
『……んー、いろいろ言いたいことはあるけど、
まず、翼。
────私を、いまの立花彩を、ちゃんと見て』
凛とした、自然と背筋が伸びるような声だった。
それにぴくりと肩を震わせて、
怖々と、夕陽から半透明の彼女へと目を向けた。
その、瞬間。
『ごめんね。逢いに来ちゃって』
その、儚い笑顔に。
その、触れたら霧散してしまいそうな透明さに、
胸がしめつけられた。
『私が身勝手にも逢いに来たから、
生まれた悲しみもあると思う。
だから、本当に最低なのは私の方』
けどね。
そう含みを持たせた彼女は、なぜか笑った。
『涙を流すことは、弱さの証明でも、
強さの証明でもない。
ただ、───生きている証明なんだよ』
その、言葉に。
心が、視界が、ゆれた。
『目を背けるために我慢していたんだとしても、
それはきっと、今まで生き抜いてきた証になる。
……だから、』
そう、柔らかく笑った彼女は。
『────もう、泣いていいんだよ』
泣く資格なんてない。
そうわかっていても、泣かずにはいられなかった。
止められ、なかった。
現実を見て泣くために、勝手に作り上げた正当性。
でも、別にいいじゃないか。
人は、身勝手でどうしようもない、
泣く許しや理由がないと泣けもしない、
弱く脆い生き物なのだから。
「ごめんね、ごめん……っ」
顔を覆ってみっともなく泣き、
許しをこう言葉を吐く俺に、彼女はただ微笑んで
その言葉たちを聞いていた。
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A - 完結おめでとうございます!掲載当初からずっと追ってきた作品で、毎日更新されていないか確認するぐらい大好きな作品です。本当に完結おめでとうございます。ここまでおつかれ様でした。そして、こんなに素敵で感動する、最高の作品をありがとうございます!! (8月4日 12時) (レス) @page50 id: 6c0c6ff6b3 (このIDを非表示/違反報告)
レイ - 完結おめでとうございます。主さまの書かれるどこか儚いような、綺麗でどこか切ない文章がだいすきです。 (8月3日 17時) (レス) id: 39b04079dd (このIDを非表示/違反報告)
ユメ - 完結おめでとうございます🎊私も天奏さんと同じでたくさん泣きまくりました。「春の向こう側で、きみを待つ」やあとがきで伝えてくれたことはとっても大切で、この話を読んで改めてまた、しっかり生きようと思わせてくれました。本当に天奏さんはすごいと思います! (8月3日 15時) (レス) id: 6ccf209779 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ - わかりました!あと土下座はしないでくださいね。こっちまで申し訳ない気分になるので! (8月1日 12時) (レス) @page42 id: 6ccf209779 (このIDを非表示/違反報告)
天奏 - ユメさん» たいっへん長らくお待たせしてしまって土下座したい気分です有言不実行な作者ですみません……。あと一話更新したのち、完結まで突っ走れると思います!これはほんとです!!あともう少しだけ、彼らのお話に付き合ってもらえるとありがたいです。 (8月1日 9時) (レス) id: 9f30b1fbf3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天奏 | 作成日時:2022年6月9日 16時