𓂅 ページ4
.
「ありがとうございましたー」
そう言う店員さんにぺこりと会釈して、
菜の花とかすみ草の花束を抱えて歩き出す。
燦々と輝く太陽にきらめくように、
川の端に並ぶ桜並木がところどころ花開いている。
……ああ、もう桜が咲いている木もあるんだ。
昨日、部屋から見えた桜の木は蕾のままだったから油断してた。
おかしいな。
前まではちゃんと桜の開花予想を見てたのに。
……そうか。
確か、桜が嫌いになった時からだ。
見なくなったのは。
己の罪と向き合うことがこわくて、逃げている。
罪という罪悪感と、過去の記憶から。
……春なのに、こんなに鬱々していたら、
不釣り合いだろう、な。
春は新たな門出を祝うものだ。
そして、桜も。
可憐に咲いてはすぐに散ってしまう、桜。
……本当に、一瞬。
ちょっとすれば、桜は散る。
だから、がんばれ、僕。
胸に消せない重りを残して、がんばれ。
……ずっとずっと、これから
背負っていくって決めたんだから。
そう己を叱咤しながら、照りつける太陽を浴びて足をすすめる。
そうして、行き着いた先は。
「……先月ぶりだね、」
───アーヤ。
立花 彩 享年15歳
と彫られた、立花家のお墓の前。
───彼女がこの世から去り、
もう1年が経つ。
あの日から、毎月祥月命日になると、
僕は度々訪れていた。
かすみ草と、彼女が好きな菜の花の花束を添えて。
「……もう、1年が経っちゃったよ。
短いようで長かったよ。僕にとっては」
本当に、そうだった。
成績はキープしつつも、
魂の抜け殻になったみたいに過ごした。
自分が自分に課した戒めと向き合うために。
……それは、今一度として達成されていないけれど。
枯れた花を抜き取り、かわりに僕が持ってきた花を挿す。
菊などの花。おそらく立花家の人たちが来た時のものだろう。
「……ごめん。
本当に、ごめんね。アーヤ」
ここに来れば、いつも。
いつも謝っている。
気づけば謝罪の言葉を口にしている。
そんなことをしたって、無意味だってわかっているのに。
しばらく手を合わせたのち、
ゆっくりと立ち上がった、その時。
ざりっ、と
近くで石畳みを踏む音がした。
.
53人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「探偵チームKZ事件ノート」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
A - 完結おめでとうございます!掲載当初からずっと追ってきた作品で、毎日更新されていないか確認するぐらい大好きな作品です。本当に完結おめでとうございます。ここまでおつかれ様でした。そして、こんなに素敵で感動する、最高の作品をありがとうございます!! (8月4日 12時) (レス) @page50 id: 6c0c6ff6b3 (このIDを非表示/違反報告)
レイ - 完結おめでとうございます。主さまの書かれるどこか儚いような、綺麗でどこか切ない文章がだいすきです。 (8月3日 17時) (レス) id: 39b04079dd (このIDを非表示/違反報告)
ユメ - 完結おめでとうございます🎊私も天奏さんと同じでたくさん泣きまくりました。「春の向こう側で、きみを待つ」やあとがきで伝えてくれたことはとっても大切で、この話を読んで改めてまた、しっかり生きようと思わせてくれました。本当に天奏さんはすごいと思います! (8月3日 15時) (レス) id: 6ccf209779 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ - わかりました!あと土下座はしないでくださいね。こっちまで申し訳ない気分になるので! (8月1日 12時) (レス) @page42 id: 6ccf209779 (このIDを非表示/違反報告)
天奏 - ユメさん» たいっへん長らくお待たせしてしまって土下座したい気分です有言不実行な作者ですみません……。あと一話更新したのち、完結まで突っ走れると思います!これはほんとです!!あともう少しだけ、彼らのお話に付き合ってもらえるとありがたいです。 (8月1日 9時) (レス) id: 9f30b1fbf3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:天奏 | 作成日時:2022年6月9日 16時