春の向こう側で、きみを待つ

𓂅 ページ21

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「……アーヤ。これ、僕らが、開けていいの？」






背表紙を破かないように、

丁寧にテープを剥がして取り出した鍵。


過去に、アーヤが綴った日々を覗き見るための、

追体験するための日記を開けるもの。



それを、僕らが勝手に見てしまっていいのかと、

肝心なところで躊躇ってしまう。






『……うん、いいよ。みんなが見たあと、

奈子に、パパに、ママに、お兄ちゃんに、

渡してあげて』







やっぱり、僕らにはわからなかった。


アーヤが何を考えているのか。

なぜ、僕らの前に現れてくれたのか。



すこしも。一ミリだって。






「……うん。わかった」






日記を預けていた若武に鍵を渡して、

かちり、とそれを開けてもらう。






「……アーヤ、開けるな」


『どーぞ』






恥ずかしいなあ、と思ってなさそうに

ほわりふわりと笑うアーヤを横目に、

適当なページを開いた。



……そこには。








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○月×日
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今日は若武の家に集まって近況報告会をした。
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自分の知らない知識を身につけることができて
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ほんとうに楽しいし、うれしい。
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「……っ、」






淡々と、文字のみで綴られた、

あの頃の記録があった。





読み上げる若武の声は震えていて、

床に置いている日記を覗き込むように、

みんなでまあるく取り囲む。




ぺらり、ぺらり。

めくっていく度に、最後のページへと。


あの、アーヤがいなくなる日が近づいていく。









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×月△日
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今日、全員集まることができなかった。
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続けることの限界が近づいている気がして
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すごく、くるしい。
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それは、アーヤがいなくなる、

一ヶ月前の日付だった。



ところどころ滲んでいる文字は、

たぶん、涙が紙に染み込んでしまった跡で。




それを見た全員が、気を引き締めて。


涙がこぼれてしまわないよう、

目に力を入れたのがなんとなくわかった。






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