魔 性 と 恋 傀 儡 【 雪男 】

_ ページ14

.



初めて呼び捨てで名前を溢せば、何処か悲しげに微笑んだ彼女の肩を引き寄せた。少しでもこの心からの想いを伝えたくて、シーツに皺ができるくらい強く抱きしめた




.

.

.





日の目を見る為に朝から晩まで描き続け、Aと熱い夜を経る毎日は刺激的だった。恋がこんなにも画力を伸ばすとは、昔の俺に伝えても信じてもらえないだろう。なんと例の大規模な絵画展で賞を獲得したのだ





授賞式を終えた夜、俺は一目散に屋敷を目指した。愛する彼女が久しぶりに海外から戻ったからだ。まだ伝えられていない一報をすぐにでも、と。






「はぁ、はぁ……ただいま！！」


『あら？康二、おかえりなさい』


「あんな、！お、俺、やったで！」


『ふふ、そんなに息切らして…どうしたの？』





いつもの優しい表情のA。その姿に今までの想いが溢れて…喜びを噛み締めながら抱いていた小さなトロフィーをAに掲げた






「これ見て、賞とってん！Aのおかげや…夢みたいや、ほんまに……やっと…やっと認めてもらって……っ、！」


　



胸の高まりが、さーっと冷えて引いていく感覚






何故なら、俺の歓喜の涙の先にあるのは、愛する人の見たこともない冷酷な目つきだった







「………A？……俺、なんか…してもうた…？」



『………康二も同じなのね。……残念だわ』



「何、……が？」



『分からないのなら、いいの。説明する気にもならないし』



「ちょっと、待って！俺…Aの為に、……これまでたくさん助けてもらって、そんで…なんとか世間に認められて恩返ししたくて、！」



『………なにそれ』



「っ、！」



『そんなこと、私は一度だって頼んだことない』



「………それは、……」



『私だけの才能だったのに……はぁ、これじゃもう駄目ね』




「何、言って…」




『康二、







……貴方はもう要らない』






「っ、………A！なぁ、待って！っ……おい、なにすんねん！離せっ、くそ！」





部屋から出て行こうとする彼女を叫びながら追いかけようとすれば、屋敷の人間に身体を押さえつけられる。絶望感と同時に感じた危機感。このままでは追い出される


なんとか男達を振り切り、アトリエ部屋に飛び込んだ。確かこの部屋は合鍵がないはず。内鍵をかけた後に、手元にある鍵を強く握りしめる




「………なんで分かってくれへんねん……っ、」




扉を背に崩れ落ちる。涙で月明かりが滲んでいった



.

_→←_

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す