Accueil【伊沢拓司】 (ページ38)

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水上side

『伊沢がめちゃくちゃ焦って水上と三守さん呼べって』

須貝さんの説明は、簡潔でめちゃくちゃ分かりやすかった。

伊沢さんが焦るということはほぼイコールでAさん関連であることは間違いないし、三守さんと俺を呼ぶってことは大方彼女の緊急事態だろう。

…なんて、頭の中では冷静に分析しているものの、実際の俺は焦りに焦りまくっていた。

「三守さんも…走ってきたんですね…」

「そういうっ、水上もじゃん…」

互いが互いに息を切らしながら顔を見合わせて笑ってしまった。

伊沢さんのこともAさんのことも慕っているからこそ、こんなことが成立するわけで。

「なんだと思いますか？」

「…多分だけど記憶喪失の弊害かな。僕に電話かけてきた時には須貝さん焦ってたから」

彼の言葉は妙に説得力があり、納得してしまう俺がいた。

「…大丈夫かな、Aさん」

思わず呟くと、三守さんはからかいを含んだ笑顔で俺を見つめる。

「東大出身の医者ってそんなんなの？」

…そうだ、この人も負けず嫌いだった。

そんな挑発に乗ってしまう俺も負けず嫌いだろうけど。

「違います、今のは患者を気遣っているだけです」

「…本当かなぁ？」

今度は目線を合わせることなく、彼はそうやって呟いた。

さっきのはおそらく、俺を励ますための煽りに過ぎないのだろう。

ほんと、昔から伊沢さんの周りには魅力的な人が多いんだから。

「…医者である以上、向き合わなきゃいけない局面になるかもしれない。その時になったら、水上はまだ国試受かってないんだし…」

「それ以上言ったら怒鳴りますよ」

研修医を始めたら、もうそこからは医者と同じように扱うべきだ。

「…それに、俺と三守さんがいれば最強だと思いますよ？」

俺の言葉に、今度は三守さんが笑った。

「たしかに。そうかもね」