ガーデン (ページ1)

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___1本の桜ページ1

バタン、と少し高めの位置にあるクローゼットの扉を閉める音がした。

見上げると、こっちを見て優しく微笑む兄が居た。

さっきの音は、片付けが終わった音で、ここから去る音。

嬉しいか、と聞かれれば、そりゃ嬉しいと答えるが。

寂しいか、と聞かれても、少しだけ、と答えそうな自分も居る。

何も刺さっていない、自由になった左腕。

あまり使うこともなかったから、右腕と比べてほっそりしているように見えた。

そんな俺の左腕の、内肘をゆっくり兄が撫でる。

まるで、今までよく頑張ったね、と言ってくれているみたいに感じた。

「そろそろ、行こうか。カーテン閉めるよ」

「待って、それは僕がする」

窓まで向かい、そこからの景色を一度眺める。

暇なとき、相手をしてくれたものたちだ。

ありがとう、と口に出したら変に思われるから。

少し、ほんの少しだけお辞儀をして、薄いピンクのカーテンを閉じた。

「元気で。まぁ、検診が入ってくるんだけどね」

「なんか、寂しいわ」

「いつでも遊びにおいで？」

花束を受け取りながら、そんな声を一つ一つ拾っていく。

「うん。また、そのときにね。僕だって寂しいよ。ちゃんと、働いてよ？」

長年お世話になった、もう家族同然の人たちだ。

初めて会ったときから、そりゃあ少しは老けたけど。

でも優しい笑顔はいつでも変わらなかった。

「じゃあ、お世話になりました」

車の助手席から、手を振る。

涙脆い、1人の人が泣き始め、それにつられみんなが泣く。

思わず僕も涙を零した。

そんな僕を見て、また優しく兄が微笑む。

「また、会えるんだから。そりゃあ、良いことではないんだろうけどさ。ちゃんと送ってあげるし。ね？」

「う、ん」

そのあとは無言。

車の中は、音楽がただ流れているだけ。

それでも心地が良かった。

流れる涙は、寂しい涙と嬉しい涙とが混じり合っていた。

「翔ちゃん、着いたよ」

「ありがとう。また、咲いてたんだ」

「毎年咲かせてくれてますよぉ。今日はこの木も嬉しそうだね」

「そんなこと分かるの？」

「んー、なんとなく？」

「ふふ、変なの」

「入ろう。潤がご飯作ってくれてると思うから」

「うん」

庭にある、1本の桜の木。

その木に向かって呟いた。

「…ただいま」

その木は、おかえり、とでも言うように、ザワザワ揺れた。