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「また読み終わっちゃったな…。」
読み終わった本を棚に戻す。何十冊も本があるから何冊か横に入れてなんとかしている状態。
この部屋にはこれしかない。見渡しても白一面の部屋に茶色い棚とテレビ台があるだけ。
「じゃあ外に行けば良いじゃないか。」
と思った人もいるだろう。だが僕はそれができない。『見渡しても白一面の部屋』の部分で分かった人もいるだろう。そう、僕は今入院している。
『悪性脳腫瘍』
聞いても見ても悪そうな病名。
手術や薬で治るらしいが、発見が遅れたため、治る見込みがない。だったら好きなことを死ぬまでやらせてくれと思うが、両親が入院を勧めた。
まぁ趣味がサッカーかピアノぐらいのものだし、そう変わらない。
暇だし寝ようと思っていたところに廊下をバタバタと凄い音を立てながら走る人。迷惑だなぁと思ったけど、ここは病院だ。もしかしたら何かあったのかもしれない。そう思うと急に寂しくなる。ガラッと勢いよく開けられたどこかの扉。その瞬間大きな声で騒ぐ人。
「大丈夫なの！？」
「大丈夫よ。ただのギックリ腰！」
「はぁ？ギックリ腰！？なんだよそれ…」
聞こえる大きさ的に隣の部屋か。息子だと思われる人がお気の毒に思えてきた。心配して駆けつけてみたらまさかのギックリ腰。
…いや、まぁギックリ腰も重症っちゃ重症か？
と、変なことを考えてたらガラッと開けられるドアの音に跳ね上がってしまった。
「あ、ノック忘れちゃった。あのー…」
「大丈夫ですよ、どうかしましたか？」
「いや、隣りに母が入院するので挨拶と…、さっき廊下走っちゃったから謝罪に…。煩かったですよね、すみません。」
あー、息子さんか。
「大丈夫ですよ。ふふっ、ギックリ腰…なんですよね？」
「え！聞こえてました！？うわぁ、ちょー恥ずかしい…」
良かった。間違えてない。これで全然違う人だったら僕の方がちょー恥ずかしいやつだ。
「えーと、これからちょくちょく顔合わせると思うんで…よろしくお願いします。名前は…？」
「翔です。櫻井翔。」
「櫻井さんかぁ。あ、俺大野智です。」
あ、扉のとこに書いてた。って言いながら部屋を後にした大野さん。すごく礼儀正しい人だなーって、隣りのお母さんも良い人なんだろうなーって。
正直、智くんのお母さんには感謝してもしきれないね。「ギックリ腰になってくれてありがとう。」って、変だけど。
それでも僕と智くんがこうして出会えたきっかけでもあるんだから。
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作者名：永遠-towa- | 作者ホームページ：
作成日時：2015年12月3日 18時
