流れる季節の真ん中で(磁石) (ページ12)

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「ねえ、それ読んでて分かるの？俺分かんなかった。」
「僕も分かんない。」
「…え？」

予想に反する答えにビックリする。分かってて読んでると思ってたから。彼にとっては単なる暇潰しなのかもしれない。

「和、お金渡すから飲み物買ってきてくれない？」
「うん、いいよ。何がいいの？」
「ココア。」
「オッケー。」

部屋から出ると入れ違いに部屋に入っていく先生。確かこの前ぶつかった人だ。…回診か。俺に見られたくなかったのかもしれない。こういうことに鋭い自分に笑えてしまう。

遠い方の自販機に行こう。近いところだと回診を見てしまうことになる。面倒臭いけど1階に行こう。ちょうどいい時間になるかもしれない。

増税のせいでこの前より10円ほど値段が高くなったココアを買う。彼はそのことを知らなかったのか、この前と同じ値段の120円を渡していた。…10円は貸しだからな。俺のこの気遣いの値段も含めて今度返してもらおう。

「翔ちゃん、買ってきたよ。」
「ありがとう、飲みたかったんだよねー。CM観てから。」
「ああ、あのCMね。」
「うん。」
「それ、何？」
「これ？先生がねー、塗り絵持ってくんの。暇潰しにって。」
「保育園児かよ。」
「そういうところが良いところだって看護師さんから人気なの。イケメンだしね。」
「ふぅん。エリートだ。」
「ちょっと煩いんだけどね。」

煩い先生か。でも良いじゃない。この真っ白の部屋には必要なんじゃない？