【太宰治】一腕一足の少女 (ページ40)

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野暮な事Ⅱ ページ40

「私達は、元ポートマフィアの構成員だよ。」

鏡花さんから放たれる警戒心が強まった事を感じ、余り深堀した事は云うまいとした。

彼女と若干の距離が出来てしまったと思い、少しだけ寂しさを覚えた。

「…Aさんは、余りマフィアという感じはしない。」

「人は見かけによらないものだよ。

杖を突いているのだって偽装かもしれないし、如何とでも考えられるさ。

…でも、君にそう思わせられるのもAちゃんの才能だろうね。」

「安心させる才能とかですか？」

「純粋さだよ。」

云われている意味が理解出来ずに困惑していると、太宰さんが手を叩いて話を戻した。

「取り敢えず！君の事は私から敦君に話しておくよ。

流石に今晩は早急だから探偵社で寝泊まりする事になると思うけど、明日の朝、敦君に食事を作って上げるといい。」

「分かった。」

「そうしたら、必需品等見に行きましょうか。

与謝野女医を誘えば快諾して頂けるでしょう。」

善は急げと、私達は太宰さんの部屋を後にした。

去り際、彼に耳打ちをしておいた。

「それじゃあ、気を付けてね。」

「…太宰さん。」

「ん？」

「明日以降、最悪の事態を予測しておいた方が良さそうです。」

「今回は"見えない"のかい？」

「分岐点が多いですね。

多分、向こうにそう云った異能力者が居るかと。」

「…大凡の展開には検討がついているけれど、君には負担をかける事になるね。」

彼が態々そう云うという事は、被害は大きいものとなるだろう。

思考していると、不意に頭を撫でられた。

顔を上げれば、其所には曖昧に微笑む姿があった。

「Aさん？」

階段の下から鏡花さんに声を掛けられ、名残惜しくも手が離された。

「其れでは、行ってきますね。」

「ああ、亦明日。」

探偵社へ戻る道程にて、彼女から話を振られた。

「彼の人とは、恋人同士なの？」

「いいえ、違いますよ。」

「それじゃあ、夫婦？」

「あはは…そう見えますか？」

「…少なくとも、友人関係ではないと思う。」

「…此の気持ちを言葉にする事が、お互い怖いんだと思います。」

「多分、両思いだと思う。」

「…私達が人並みの幸せを手にするには、抱えるものが大き過ぎます。

その分、鏡花さんや他の皆さんが幸せになってくれれば私は嬉しいです。」

彼女に憐れみを帯びた眼差しを向けられているが、私は其れに気付かない振りをした。