3月22日14:37 ページ8
会うたび、話すたび、側にいたいと思うようになった。
***
「初めまして、またお会いしましたね」
長閑な昼下がり、いつも通り仕事などあるはずもなく、ただ何となく街をぶらついていた時だった。
紫色の暖簾、赤い縁台、下町にあるような珍しくも何ともないその店に何の気なしに足を踏み入れたのだ。
春だというのに今年は例年より気温が高く、桜もとっくの昔に散ってしまった。
一歩間違えれば桜と向日葵のコラボレーションが拝めるだなんて、そんなニュースまで流れた程で。
何でもいいから甘くて冷たい、かき氷や水饅頭のような涼を感じるものが良かった。
それが、坂田銀時がこの店を訪れた経緯だった。
その店の中で外の気温を感じさせず涼しげに佇む女に銀時の目が僅かに揺れる。
「どこかで会ったことありましたっけ?」
「いえ、私が一方的に知ってただけなんです。ほら、銀さんって有名だから」
「はー、そりゃありがてェことで」
適当な縁台に腰掛け、置かれていた品書きに目を通す。
普通の甘味処と何ら変わりない、どこにでもあるような茶菓子の名前が並んでいた。
「取り敢えず水饅頭…と、みたらしも」
「はい、水饅頭とみたらしですね。少々お待ちください」
パタパタ走る女の着物の上から掛けたエプロンが揺れる。
銀時はそれをぼんやりと眺めた。
まるで夏日のように暑い春、黒いインナーの下で汗でじっとりと濡れた胸から息を吐き出す。
クーラーも扇風機もない店なのに、外の気温よりもずっと低い気がした。
「お待たせしました」
「おー、早えな」
女がお盆から水饅頭とみたらし団子の乗った皿を銀時の前に置いた。
みたらしの甘い香りが銀時の鼻をかすめる。
冷めないうちに団子を口に運んだ銀時の目が見開かれた。
「うっっっんま」
ぽたり、とタレが皿に落ちた。
続けざまに二口三口と口に運ぶ様子に女が小さく笑う。
「おじさん!美味しいって」
「おーー、万事屋の兄ちゃんか。よく分かってるじゃねぇか」
「こりゃかぶき町でも指折りだぞ。俺が言うんだから間違いねェって」
店の奥から顔を出した店主が満足気に笑った。
続けざまに口に運んだ水饅頭も程よい甘さと食感で、あっという間に皿は空になる。
会計を済ませようと女を仰げば、銀時と目を合わせるよりも早く女は口を開いた。
「ツケでいいですよ」
「んだよ、それもまた噂か何かか?今日は金持ってるっての」
「いえ、きっとまた来てくれるはずなので」
女はそう言うとにっこりと笑った。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - えだまめンヌ。さん» 心温まるメッセージありがとうございます!私生活との兼ね合いで中々こちらにお邪魔できない状況が続いていますが、えだまめンヌ。様の言葉を励みに頑張っていきたいと思います〜! (2020年6月20日 21時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - ↓「作品だったとは」の後に「…」を入れるの忘れてしまい変な文章になってしまいました。地味に地味ーに誤字っちゃいました笑すみません! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - こんなに色々考えさせられる作品だったとは軽い気持ちで読んだのですが、もう完全にハマっちゃいました。応援しています!!長文失礼致しましたm(_ _)m (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - けれど、ここにきて予期せぬ展開ばかり起こっていて、ん?ん?となんとか自分なりに考察しながら読み進めています笑どんな結末になるんだろう…!?最後に話が1つに繋がってスカッとなる瞬間がくるのを今から待ち焦がれています! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - えええ…。とってもとっても続きが気になります!!初めは本当に「なんじゃこりゃ?」ってなって、あとがきを読んでましろさんにしめしめと一本取られていたとわかったときは少ーし腹が立ちました笑 (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2019年5月26日 21時