検索窓
今日:5 hit、昨日:2 hit、合計:10,871 hit

3月22日14:23 ページ22

3月には類を見ない暑さになるという予報は大当たりだった。
町中をふらふらと歩く銀時の首筋には既に汗がじっとりと流れている。
何がどうしてこんな異常気象になったか、何を恨んだら良いのかも分からず銀時は歩いていた。

パチンコに行くか。
ファミレスかどこかへ行くか。

どっちにしろこのまとわり付くような暑さからは逃れられるとは思うが、どちらへ行っても金がなくなるのは明白だ。
昨今、ファミレスの出費も馬鹿にならない。

「あー……どうすっかなぁ」

と、ぼやいて気付いた。
そもそも、今まで毎日をどう過ごしていたのだろうか、と。
昨日までの記憶が無いわけではなく、昨日は朝からお登勢に頼まれごとをされていたことはハッキリと覚えているし、その前の日に何があったかも確かに覚えている。
ただ、何故だかもっと昔のことはぼんやりと記憶に霧がかかったように曖昧だった。
例えば、何で今この町にいるのか、だとか。
そんなもの別に今必ず必要な情報でもないが。

考えても意味などなく、むしろ考えることで何か悪いことが起きるような気もして、結局銀時は首を振って溜息を吐いた。
それに気を取られていたから失念していたのかも知れない。
どす、と鈍い音が胸の辺りで聞こえた時には考えていた曖昧な事象など吹っ飛んでいた。

「あ、悪ぃな」

ぼんやりしていて前に気を向けていなかった自分を自覚していたから咄嗟に謝罪の言葉が口を突いて出た。
額を銀時の胸にぶつけたらしい女はぶつけた箇所を両手で抑え俯いている。

「どっか打ったか?」

打ったと言っても胸だしなぁ、と思わなくもなかったが罪悪感から一応声は掛けた。
けれど、女は一言も口にはせず首を振って否定する。
自分も悪かった、そう言いたかったのか黙ってぺこりと頭を下げた。
ひどく綺麗な黒髪がその動作につられて流れ落ちた。

「……あぁ、何もねーなら良いけど」

そう言っても女は顔を上げなかった。
変な奴だ、そう思って通り過ぎようとしたとき、ようやく女は顔を上げた。
すれ違いざま、ほんの一瞬だけしか拝むことは叶わなかったが、女の顔はまるで人形のように整っていた。
かぶき町では見かけない顔で、思わず振り返ったが女は既に銀時に背を向けて歩き出していた。
背中まで伸びた黒髪を揺らして女は雑踏に紛れて消えて行く。

「ま、いいか」

そうして何事もなかったかのように銀時も歩き出した。
背を向けた雑踏の先で女が感情のない瞳で銀時を見ていたことには気が付かなかった。

3月22日14:35→←3月22日09:12



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (33 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
26人がお気に入り
設定タグ:銀魂 , 坂田銀時   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

この作品にコメントを書くにはログインが必要です   ログイン

月ヶ瀬ましろ(プロフ) - えだまめンヌ。さん» 心温まるメッセージありがとうございます!私生活との兼ね合いで中々こちらにお邪魔できない状況が続いていますが、えだまめンヌ。様の言葉を励みに頑張っていきたいと思います〜! (2020年6月20日 21時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - ↓「作品だったとは」の後に「…」を入れるの忘れてしまい変な文章になってしまいました。地味に地味ーに誤字っちゃいました笑すみません! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - こんなに色々考えさせられる作品だったとは軽い気持ちで読んだのですが、もう完全にハマっちゃいました。応援しています!!長文失礼致しましたm(_ _)m (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - けれど、ここにきて予期せぬ展開ばかり起こっていて、ん?ん?となんとか自分なりに考察しながら読み進めています笑どんな結末になるんだろう…!?最後に話が1つに繋がってスカッとなる瞬間がくるのを今から待ち焦がれています! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - えええ…。とってもとっても続きが気になります!!初めは本当に「なんじゃこりゃ?」ってなって、あとがきを読んでましろさんにしめしめと一本取られていたとわかったときは少ーし腹が立ちました笑 (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2019年5月26日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。