××月××日--:-- ページ20
好きと思う気持ちは止められなかった。
***
いたい。
いたい。
いたい。
みぎあしがいたくて、ひだりあしからはちがながれていて。
痛い。
痛い。
痛い。
右足が痛い。
左足からは血が流れ続ける。
真っ暗な森の中で狼の遠吠えが聞こえた。
狼はきっと私の流した血の匂いを嗅ぎ分けて追いかけてくるのだろう。
その奥からは「探せ!」「逃すな!」そう叫ぶ人の声も聞こえた。
私は怖かった。
死んでしまうことではなく、このまま逃げ続けた先に私を受け入れてくれる存在がないことが堪らなく怖かったのだ。
蹲って耳を塞いで時間が止まれば良いと思った。
だけど無情にも時間は流れ続け、ガサガサと葉を掻き分ける音だけが妙に近くに感じる。
足を止める訳にはいかなかった。
断頭台から私をじっと見つめる少女の目、磔にされて燃え上がった炎の中で悲しそうな顔をしていた女性、その記憶がある限り私は逃げ続けなければいけない。
何があっても「これ」だけは渡してはいけない。
「やだ…いやだ……たすけて、……だれか、、」
もう2度とあんな光景は見たくない。
だから絶対に私は逃げ延びて、たった一人で生き続けなければいけない。
そうでなければ、私はきっと彼女たちを弔うことが出来やしない。
「ぅあっ……!」
裸足で走っていた指に硬くて大きな石が当たってダイレクトに躓いてしまった。
「あっちだ!」「声がしたぞ!!」そう叫ぶ声が聞こえて足音が近付いてくる。
もう、足は動かない。
「あ、あ……あぁ………」
震えが止まらない。
ガチガチと歯を鳴らして意味もなく木の葉の陰に身を隠そうとした。
身を隠すほどの茂みなどあるはずも無かった。
ガサガサと葉を掻き分ける音がすぐ背後から聞こえて、私は今度こそ身体を抱えて目を瞑った。
私はもうここで終わるしかないようだ。
特筆するような人生では無かった。
ただ、生きているだけで誰かを不幸にするしかなく、そして誰かを虚栄に満ちた夢で陶酔させることしか出来なかった。
虚しさも苦しさも全てを味わって、たった一瞬たりとも幸を感じることもなく私は終わる。
後悔はない。
ただ、虚しさだけが胸中に広がる。
私を追う音はすぐそこまで来ていた。
震える腕を誰かが引っ張り上げて、あぁ、やはり死ぬのも嫌だなぁ、なんて思った。
「どうかしたのですか?」
けれど私を映し出すその瞳は憎悪や嫌悪、まして好奇のそれでもなく、ただ丸く見開かれているばかりで。
それが、私と彼との出会いだった。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - えだまめンヌ。さん» 心温まるメッセージありがとうございます!私生活との兼ね合いで中々こちらにお邪魔できない状況が続いていますが、えだまめンヌ。様の言葉を励みに頑張っていきたいと思います〜! (2020年6月20日 21時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - ↓「作品だったとは」の後に「…」を入れるの忘れてしまい変な文章になってしまいました。地味に地味ーに誤字っちゃいました笑すみません! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - こんなに色々考えさせられる作品だったとは軽い気持ちで読んだのですが、もう完全にハマっちゃいました。応援しています!!長文失礼致しましたm(_ _)m (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - けれど、ここにきて予期せぬ展開ばかり起こっていて、ん?ん?となんとか自分なりに考察しながら読み進めています笑どんな結末になるんだろう…!?最後に話が1つに繋がってスカッとなる瞬間がくるのを今から待ち焦がれています! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - えええ…。とってもとっても続きが気になります!!初めは本当に「なんじゃこりゃ?」ってなって、あとがきを読んでましろさんにしめしめと一本取られていたとわかったときは少ーし腹が立ちました笑 (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2019年5月26日 21時