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目の前に広がる変わらない風景に、息をつく。
白い息がふわり、口元から上がった。
「……わ、懐かしい」
5時のチャイムをBGMにあてどなく歩き回った末私が辿り着いたのは、あの懐かしの通学路。
これまた懐かしい制服の群れに乗って、歩みを進めること数分。
「……あ、」
ふと私の足を止めたのは、私達があの群れの一員だった頃、なかむに良く連れて行ってもらったラーメン屋さん。
実はあまり食べた事が無い、と白状したら、絶対ここが美味いから!と語気を強めて引っ張って来られたんだっけ。
私が醤油で、なかむは味噌と半炒飯。
決まって最後の方でお腹いっぱいになる私の分をなかむが食べてくれた所まで、案外ちゃんと覚えている。
懐かしさと鼻腔を擽る匂いに誘われて、ふらりと目の前の扉を開いた。
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「醤油ラーメン1つ、あと、半炒飯もお願いします」
店内には制服姿の高校生と、仕事帰りのサラリーマンが半々。
イレギュラーな夕飯に何となくドキドキしながら、早速やって来たラーメンと炒飯を目の前に、小さく手を合わせた。
1口啜ると、まず口に広がったのは懐かしさ。
冷えた口元も綻ぶ美味しさに、なるほど。あの頃からなかむは食通だったんだな、なんて思いながら、1人ラーメンを啜る。
……でも、半炒飯はしんどいかもしれない。
高火力で作られたパラパラ炒飯は美味しい。美味しいけど、流石男子高校生ご用達の店。量が多い。
いや、自分で頼んだんだし、残すのは失礼だ。
そうは思いつつ、次第に限界を迎える私の隣にお客さんが1人、腰掛けた。
「すみません、味噌ラーメン1つ」
お客さんの声に、思わずぱっと振り返る。
隣で寒そうに手を擦るのは、コート姿のなかむだった。
「それ、食えんの?」
「……ちょっと、しんどい」
「ん」
低く頷いたなかむは、私の手からレンゲとお箸を取り上げて、あっという間に平らげていく。
「なんで炒飯つけたの」
昔から少食の癖に。
「今日は食べられる気がしたの」
だって昔、なかむが美味しそうに食べてたから。
「何それ」
それ以降、なかむは何も言わなかった。
自分のラーメンも綺麗に食べ終わり、お財布を出そうとした私の前で2人分のお勘定を済ませて、元気の良い店主の掛声に見送られるまで。
「A」
「ごめん」
「……いいよ。私も、ごめんね」
「うん」
カウンター席から解放された私達は、漸く互いの目を合わせる。
繋いだ手は、家に着くまでそのままだった。
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あいりす(プロフ) - 無理してほしくはないので! (2023年1月28日 14時) (レス) id: 255513ac99 (このIDを非表示/違反報告)
あいりす(プロフ) - あ、無視してもらっても良いですよww (2023年1月28日 14時) (レス) id: 255513ac99 (このIDを非表示/違反報告)
あいりす(プロフ) - リクです!Smさんに!「ご飯にする?お風呂にする?それとも私?」をお願いします!シチュエーションは何でも良いです! (2023年1月28日 14時) (レス) id: 255513ac99 (このIDを非表示/違反報告)
半熟卵(プロフ) - すいみん。さん» 嬉しいコメントありがとうございます!少しでもすいみん。様に楽しんで頂けたのならば幸いです☺︎ (2021年9月28日 19時) (レス) id: f0de40f6dd (このIDを非表示/違反報告)
すいみん。(プロフ) - すごい、すごすぎます。””本物””の小説を見ているようです。視点主の気持ちをうまく文に乗せていて、感情が読み手側に考えさせられる?というか、なんとういか…。=素敵です。次の更新も待ってます、無理せず頑張ってください! (2021年9月27日 21時) (レス) id: 89ac922806 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:半熟卵 | 作成日時:2021年2月4日 21時