One-way love/kntk ページ14
あっ、
図書室内にしては大きめの声が辺りに響く。
慌てて口を覆った彼女は、恐る恐る、といった様子でこちらを見上げてきた。
「……えと、これで合ってた?」
「ぁ、うん、それです……」
後に続いたありがとう、を聞き逃しそうになるくらい、打って変わって小さな声。
驚かせた事を少し申し訳なく思いながら、彼女がつま先立ちをしてやっと触れるか触れないかの位置にあった本を手渡す。
「ごめん、びっくりさせちゃった」
「あ、いや、違くって……その、」
本を胸に抱えながら口篭るAさん。
何だかいたたまれなくなって、その場をどう離れようか考えていると、小さな小さな声がした。
「……言わないで、」
「へ?」
「……これ、借りてた、って……誰にも言わないで、くれる……?」
思わず見やった彼女の顔は、これでもか、という程真っ赤で。その言葉の内容より、赤い頬と、縋るような眼差しに動揺した。
「あー……えっと、それのこと、だよね」
『気になるあの人から追われる!告白される!』
『愛され女になる秘訣は?!』
『これ1冊で彼もアナタのトリコ!』
ちゃんと見た訳ではないが、概ねそんな感じのキャッチコピーが踊る、俗に言う自己啓発本というやつだろう。それも、恋愛系の。
おいこれ、図書室にあって良いのか。
「……お願い」
……え、なんかちょっと泣きそうじゃない?気の所為??
「言わない!言わないよ、そんな個人的な事!」
「……友達にも、言わない?」
「絶っっ対言わない!俺、口堅いから!」
そこまで言って、やっと彼女は大きく息をつく。まだ赤い頬を抑えて、へにゃ、とした笑顔を浮かべて見せた。
「ごめんね、突然……まさか、きんときくんに見られるなんて思わなくって……」
「……えっと、ありがとう。じゃあ、」
「あー、うん……あのさ、」
頑張って。
足早に立ち去ろうとした背中に、短いエールを投げる。
びっくりした顔で振り向いたAさんは、もう一度、あの困ったような笑顔で小さく手を振って去って行った。
「……くっそ羨ましいな、アイツ」
彼女が好意を寄せている相手なんて、最初から知っていた。
俺だって、彼女の目線をつい追ってしまうくらいには重症なんだから。
……けどまぁ、狡猾にも卑怯にもなれない俺は、黙って2人の背中を眺めてるくらいがお似合いなのかも、なんて。
誤魔化して、目を背けて。今にも泣き出しそうな本心に、自分の手で蓋をした。
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あいりす(プロフ) - 無理してほしくはないので! (2023年1月28日 14時) (レス) id: 255513ac99 (このIDを非表示/違反報告)
あいりす(プロフ) - あ、無視してもらっても良いですよww (2023年1月28日 14時) (レス) id: 255513ac99 (このIDを非表示/違反報告)
あいりす(プロフ) - リクです!Smさんに!「ご飯にする?お風呂にする?それとも私?」をお願いします!シチュエーションは何でも良いです! (2023年1月28日 14時) (レス) id: 255513ac99 (このIDを非表示/違反報告)
半熟卵(プロフ) - すいみん。さん» 嬉しいコメントありがとうございます!少しでもすいみん。様に楽しんで頂けたのならば幸いです☺︎ (2021年9月28日 19時) (レス) id: f0de40f6dd (このIDを非表示/違反報告)
すいみん。(プロフ) - すごい、すごすぎます。””本物””の小説を見ているようです。視点主の気持ちをうまく文に乗せていて、感情が読み手側に考えさせられる?というか、なんとういか…。=素敵です。次の更新も待ってます、無理せず頑張ってください! (2021年9月27日 21時) (レス) id: 89ac922806 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:半熟卵 | 作成日時:2021年2月4日 21時