【文スト】いつも兄がお世話になっております４【国木田】【完結】

182、似ている ページ37

私は本当の両親の顔を知らない。




ーねぇ、お父さん、お母さん。
貴方たちはどんな人だったのですか？ー




ーどんな声で、どんな顔をしていたの？ー




何も、分からない。
何一つ、思い出せない。




「ッ…」




意識が浮かび上がっていく感覚に、薄っすらと瞼を開ける。
目に入ってきたのは灰色の天井。




「…ここ、は…」




柔らかい感覚がして目を向けると、そこは簡易的なベッドの上だった。
おもむろに体を起こし周りを見ると、どうやらここは小さな部屋らしい。
ちょうどその時、部屋の扉が静かに開いた。




「目が覚めましたか」




入ってきたのはフョードルと名乗った男。
男は不気味なほど優しい笑みを浮かべる。




「おはようございます」




ゾクリと、路地裏でも感じた悪寒が背筋を走る。
けれど、ここで怯んではいけない気がした。
男の思い通りになってしまう気がして。




私はいつものようにニコリと冷静な笑みを浮かべて言う。




「私をこんなところに連れてきて、何のつもりですか？」




「ぼくはただ貴女とお話がしたいだけですよ」




「無理矢理私を眠らせた人と会話をしろと？」




尚も笑みを崩さない私に、男は愉快そうに目を細める。




「この状況でも笑みを崩さないとは。
やはり似ていますね、貴女は」




「…ッ、一体誰に似ていると…」




「貴女の母親ですよ」




告げられた言葉に、一瞬息が止まった。
男は今なんと言った？




「…私の母親に、似てる？」




「ええ、とても良く似ています。
容姿も、声も……“恐怖を感じたときほど笑みを浮かべる仕草"でさえも」




「…あなた、は…私の何を知っているの」




もう、笑みを浮かべる余裕なんて無かった。
ただただ、目の前の男が怖くて仕方がない。




「全てです。貴女が国木田家の養子であることも、貴女の過去の記憶が無いことも、全て」




全身が自分の意志とは関係なしに震える。
怖くない、そう言い聞かせても体は正直だ。
全て、本当に全て、彼は私のことを知っている。




「そんなに怖がらないでください。危害は加えないと言ったでしょう？」




フョードルは慈しむように自分を見る。




「貴女の知りたいこと、全てを教えて差し上げますよ」




紫の瞳が柔らかく細められた。

183、隠された真実→←181、オルゴールの所有者

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す