3度目の正直

入社 ページ2

2004年


シグマセブン本社



「は、はじめまして！今日からこちらの会社で声優として頑張らさせて頂きます！
Aです！よろしくお願いします！」



何人かの声優の先輩達の前で勢いよく頭を下げる。


パチパチと鳴った拍手の後にみんな優しく声を掛けてくれた。
そしてそれぞれが自己紹介をしてくれる。

わからないことがあったら何でも聞けよー。
なんて優しい声をかけてくださった男性は安元さんと言うらしい。

もしかしたらもっとギスギスした雰囲気なんじゃないかって気を張っていた私はその優しい笑顔に癒されつつ、また頭を下げる。


「今事務所にいるのはこれだけ。あとは追々紹介していきますから。じゃあ次行こうか。」


社員さんにそう促されて私はもう一度先輩声優の皆さんのほうを向いて頭を下げてお礼をし、社員さんの後に続いた。


今日はシグマセブンに入って初日。

まずは声優さんや社員の人達に挨拶まわりから始まった。

入社式にも参加はしたが、やはり声優という職業上、個人の顔を覚えてもらうことも大事だからと毎年の恒例らしい。


けど……


「あの…。」


「ん？どうかした？」


私がおずおずと声をかけると前を歩いていた社員さんがこちらを向く。


「あの…今年入った他の声優さん達は一体どこに…。」


ずっと気になっていた疑問をぶつけると、社員さんはキョトンとして頭の上に?をつける。

「え？いませんよ。今年入った新人声優はAさんだけ。」


「え……えぇ！？」


思いもよらなかった答えにびっくりして思わず奇声を上げる。


「知らなかったんですか？ふふっ。頑張らないとね。[期待の新人]さん。さ、次行こうか。」


そう言い残すと社員さんは不敵な笑みを浮かべて颯爽と前を歩いて行った。



オーディションの結果連絡は合格者のみに電話連絡だから全然知らなかった。


オーディションの現場はみんなライバルだから殺伐としてて、誰かと仲良くなって番号を交換するなんてこともしなかったし…。


そんな事を悶々と考えている間にも社員さんはどんどん先に行ってしまう。



私は戸惑いながらも必死で社員さんの後に着いていった。

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