弐 ページ33
「…鐵腸さん、三つ四つは云いたい事がありますが先ず一つ。…そのバケツ何ですか??」
あ、良かった。私も聞きたかった事を条野さんが質問してくれた。しかし私はその答えを聞いてすぐに居た堪れなくなった。答えが答えだったからである。
「MMFの『むかしなつかしバケツプリン』だ。先日発売が開始された」
食うか?と鐵腸が富醂を乗せた匙を条野に差し出すが、突っ返される。しゅん、と鐵腸はしょげたが私の存在を捉えるとすぐにその匙を私の鼻先に差し出してきた。…私は離乳食しか食べられない赤子ではない。遠慮しようと思ったら、「やめなさい!」とバスに大声が響いた。
「こんな年端もいかない少女に!どうせまた変なものでも掛けているんでしょう!?味覚音痴にでもなったらどうするんです!」
「変なものなんて掛けていない…練り生姜だけだ」
「それが変なものだっつってんですよ」
漫才を繰り広げているところ悪いが、実は私はその商品を出した企業に務めています…なんて云えるわけがない。しかも名前のセンスからして、Aの企画した商品だろうな…。
_次は、小石川病院前!小石川病院前!
アナウンスが告げた名前は、私の下車する予定だった停留所のものだ。私はこれ幸いとばかりに鐵腸を押しのけて、「じゃあね、お兄さんたち!」とバスを駆け下りた。あんな変人共に関わっている暇はない。私にはやるべき事があるのだから。
「…ええ。
条野がそう云った。いつの間にかその顔には、あの虚無の微笑が蘇っていた。
「…条野、あの子どもは
「はてさて、どうなんでしょう」
バスの中でなされていた会話を、私が知る事は一生ない。
病院の入り口をくぐったかと思えば、次の瞬間には目の前で太宰少年が眠っていた。美しい寝顔だった。白雪姫を目にした王子も、こんな感情を抱いたに違いない。
「佳人薄命…か」
口から突いて出た言葉を聞いて、私は思い切り首を横に振った。
…なんて演技でもない事を。彼は死なせない。死なせてなるものか!
私は寝台の傍らに置いてあった台の上の、籠に入っていた林檎を手に取った。フルーツナイフが刺さっている。気休めに赤い実を一口齧ってみた。全然、気休めにもなりゃしない。
けれど、それでもやらなければ。私が、やらなければ。
私は嘗てない程の衝動を覚えていた。
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サラ(プロフ) - しぇるふぃあ。さん» こんな細かい描写にも気づいて頂けるなんて物書き冥利につきます!消せませんよ、でもここでは説明し切れないので後日改めて説明させて頂きますね! (2018年12月13日 20時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - しぇるふぃあ。さん» お久しぶりです。しぇるふぃあ。さん、すごく読んで頂いているようなのでとても嬉しいです、ありがとうございます。 (2018年12月13日 20時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。 - ところで夢主ちゃんは前世が国語教師なのですよね?だったら41pに出てくる安吾さんの名前は知ってるはず…と違和感を覚えました(・・?) はっもしや伏線?ネタバレに触れるようでしたらこのコメントはそっ消ししてくださいm(_ _)m これからも陰ながら応援してます!! (2018年12月13日 19時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。 - お久しぶりです!しばらく顔を出せなかった間にすごく進んでて一気読み不可避でした…あんまり好きポインツ語るとコメ欄ネタバレになるので控えますが仲直り本当に良かったです(ネタバレ) (2018年12月13日 19時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - 紫苑さん» 応援ありがとうございます!頑張らせていただきます! (2018年12月2日 23時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サラ | 作成日時:2018年9月20日 12時