第二十四章 責任 壱 ページ3
自分本位だった_。
その言葉に尽きる。あの時、自分が死ぬ瞬間、私は一度たりとも濡れ衣を着せられる事になるであろう太宰少年の心配をしていなかった。
私がしていたのは、私の心配だ。私の命が次にどこへ行くのかを不安がっていた。
自分の利己的な一面を最期に見てしまい、私は嘆いた。咆哮した。
ウオオオオ、ウオオオオォォォ…_
先程から耳に届く悲痛の叫びが、紛う事なく自分のものである事に、私は漸く気が付いた。泣いても誰かが助けてくれるわけではない。けれど最期の瞬間、この此岸と彼岸の狭間だけでは好きなだけ泣いてもいいだろうと勝手に判断した。
でも、何で泣いているのかは判らなかった。涙がどんどん落ちていく。そして地を流れ、やがて大きな川となった。川の流れは穏やかで、向こう岸が微かに見えた。
でも今の私にはどうでもいい。私はまた嗚咽を上げ始める…。
私は再び保健室の寝台で横になっていた。何度もここで目を覚ましたから、すぐに判った。不思議な心持ちだった。死んだ実感がまるで湧いて来ない。
「A」
美智子にAと来て、次もAか。最近はこの名前が次元を超えてトレンドなんだろうか。
「A」
気のせいじゃない。確かにAと呼ばれた。私はいい加減、現実逃避を止めて、声のする方に視線を移す。
そこには_不思議な事に、太宰少年がいた。これまた不思議な事に、至極満足そうに微笑んでいた。私の意識が戻って安心したから…という微笑ではなかった。何だかそれより遥かに恐ろしいものを感じた。
「ほらね、やっぱり僕がいなきゃ駄目なんだ」
「え…?」
当惑して、声が出てしまう。そんな事も構わない様子で、少年は熱のこもった声で語った。
「僕が傍にいなきゃ、守ってあげなきゃ、君はこの世界で生きていけない。今回の事でそれも証明されたろう?僕がAの障害を消すんだ、君の敵は僕が殺すんだ!この僕が!」
それを聞いて、私の頭の中はサアッ_と冷たくなった。指の末端が原因不明の痺れを発した。
「じゃ、じゃあ私の傍を離れてたのは_」
「ん?ああ、あんな事はもうしたくないな」
私は安堵すら出来なかった。太宰少年が私から距離を置いていたのは、私に敢えて危険が降りかかるようにする為だったのだ。私を嫌っていたからではない。
寧ろ、危惧すら感じた。このままでは、この少年は_
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サラ(プロフ) - しぇるふぃあ。さん» こんな細かい描写にも気づいて頂けるなんて物書き冥利につきます!消せませんよ、でもここでは説明し切れないので後日改めて説明させて頂きますね! (2018年12月13日 20時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - しぇるふぃあ。さん» お久しぶりです。しぇるふぃあ。さん、すごく読んで頂いているようなのでとても嬉しいです、ありがとうございます。 (2018年12月13日 20時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。 - ところで夢主ちゃんは前世が国語教師なのですよね?だったら41pに出てくる安吾さんの名前は知ってるはず…と違和感を覚えました(・・?) はっもしや伏線?ネタバレに触れるようでしたらこのコメントはそっ消ししてくださいm(_ _)m これからも陰ながら応援してます!! (2018年12月13日 19時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。 - お久しぶりです!しばらく顔を出せなかった間にすごく進んでて一気読み不可避でした…あんまり好きポインツ語るとコメ欄ネタバレになるので控えますが仲直り本当に良かったです(ネタバレ) (2018年12月13日 19時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - 紫苑さん» 応援ありがとうございます!頑張らせていただきます! (2018年12月2日 23時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サラ | 作成日時:2018年9月20日 12時