＊ ページ17
.
それっきり何も言わなくなった画面には次々と雫が落ちていく。それが私の涙だと気づいたのは、目の前にハンカチが差し出されてからだった。
顔を向けると目尻を下げた赤と目があった。小さくお礼を言いながら受け取ったそれで目元を抑える。
「不器用な男だっただけであって、本気であいつはAのことが好きやったぞ」
少し崩れたグルちゃんの言葉に私は何度も頷いた。
今更思い出す。彼は自分の欲を表に出すことは無かったことを。高校時代の女の子たちのように、私を求めることは無く。でも、優しく、それこそ真綿で包む様に私に接してくれていた。これ以上ないほど、大切にしてくれていたのだ。
でも、本当は。彼なりに思い悩んでいた結果の行動で。それを知らない私はただただ幸せにそれを受け入れていた。
嗚呼、本当に。
「ばかだなぁ…」
「いや、大先生の方がアホやろ」
「違いない」
くつくつと笑う二つの声にハンカチから顔を上げると色の違う二色の赤たちが私を優しく見つめていた。あぁ、ほんとうにこの同級生たちときたら。
「良かったな。これで我慢することも無いし、別れんでも良くなるで」
「うん、ほんとに」
「まずお前たちがするべきことは話し合う事だろうな」
「うん」
「だから、――」
テーブルの上にあったスマホを持ち上げたグルちゃんは、それはそれは愉しそうに邪悪に笑った。嫌な予感が頭をよぎり、それを止めるべく手を伸ばす前にグルちゃんは何処かへ電話を掛けた。表示された名前に、ひゅと息が止まる。
『はいはーい、どしたんグルちゃん』
スピーカーで響いたのは先ほどまで聞いていた声の主だった。
「今居酒屋なんだが」
『へぇ、誰となん？』
「トン氏とA」
『…へ？ちょ、なんでそこにAがおるん！？』
「ほう、聞いてなかったのか？」
『やって、友達と外食してくるいうから女友達やと思っててん…！！』
ちらりと向けられた視線から静かに顔を背けた。いやでも嘘は言ってないよね、うん。
「まあいい」
『いや良くないんやけど！？』
「Aが泣いてる」
『――…は？』
それは、今までに聞いたことのない低い声。びくりと肩を浮かす私に、目を大きく見開いたトンちゃん。しかしグルちゃんだけは平然と、いや愉しそうに目を弓なりにする。
『なんでなん？まさか、グルちゃ』
「来ればわかる。場所は送った」
『やから、理由を――』
それを最後に、ぷつりとグルちゃんは通話を切った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 219人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ももね(プロフ) - ミイミイー☆(新アカ)さん» コメントありがとうございます！果敢に攻めるタイプのknさんは書いていてたのしかったですね〜！リクエストの方承りました。恐らく続編の方での投稿になると思いますので暫しお待ちいただけたらと思います。よろしくお願い致します。 (2020年7月26日 17時) (
レス) id: 2fa0c60296 (このIDを非表示/違反報告)
ミイミイー☆(新アカ)(プロフ) - 夢主が他の男に告白されてる(もちろん断る)のを見て嫉妬しちゃうciくんと、彼氏のemさんとキス以上に発展したくて色々アピールする話し(実際は夢主を溺愛しすぎるあまり我慢していた)と、彼氏のtntnと同棲してる夢主が構って貰いたい話しをお願いします！ (2020年7月26日 1時) (レス) id: 01da57d997 (このIDを非表示/違反報告)
ミイミイー☆(新アカ)(プロフ) - こんばんは！新作読みました！クーデレ夢主と明るいポジティブエネルギッシュシマの凸凹カップルに癒されましたね…可愛い。次のリクエストで鈍感夢主を振り向かせるべくひたすらアプローチするshpくんと(↑に続きます) (2020年7月26日 0時) (レス) id: 01da57d997 (このIDを非表示/違反報告)
ももね(プロフ) - ミイミイー☆(新アカ)さん» 勿体なきお言葉、ありがとうございます！個人的にもd先生のお話はお気に入りです。恋愛に器用な先生もいいですが、好きな子には不器用な先生も好きですね（笑）。かしこまりました！執筆が済むまで少々お時間を頂きますが、よろしくお願いします。 (2020年7月18日 0時) (レス) id: 2fa0c60296 (このIDを非表示/違反報告)
ミイミイー☆(新アカ)(プロフ) - こんばんは！リクエストありがとうございました！いえいえ、同級生シマもとてもよかったですよ！今回の話で一番グッときたのはd先生でした…溺愛されてて羨ましいぜチクショウ← お言葉に甘えて、先輩シマの話も書いて貰ってもいいですか？ (2020年7月16日 23時) (レス) id: 9b80c024e4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ももね | 作成日時：2020年5月11日 11時
