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今までの人生でナンパされたことはないし、その現場を見ることもないと思っていた。それなのに、まさか逆ナンを見ることになるとは、と目の前の光景に私は足を止めていた。
「ねーえ、いいじゃん。遊びに行こうよ!」
「…すんません、人待たせてるんで」
「つれないなぁ!ちょっとだけだよ?」
遠く離れた書店の前、可愛い格好をした女の子ふたりに絡まれているトントンを見つける。トントンはいつになく感情を抑えたような表情で頑なに腕に張り付く女の子を避けようとするけれど、相手が一枚上手なのかなかなか逃げ切れないらしい。
ぎゅ、とぬいぐるみを強く抱え込む。そうしなければ今にも涙が溢れそうな気がした。
嗚呼、なんでこんなにも今日は運がついてないんだろう。
本当は、私が勧めた料理をおいしいと言って食べるトントンが見たかった。
サプライズプレゼントをして、実はお揃いなんだと告げた瞬間吃驚するトントンが見たかった。
プレゼントを貰って喜ぶ彼に、告白しようと思ってた。
でも、お店は混んでて入れない。
ぬいぐるみは売り切れてしまってた。
おまけにトントンはナンパされちゃって。
あぁ、本当についていない。沸々と溜まっていく自信に対する苛立ちと怒り。
ふいに彼の腕に女の子の腕が絡みつき、そこであからさまに嫌そうにトントンの顔が歪んだように見えた。そんな彼をくすくすと笑う女の子たちの声に、今まで我慢していた何かがはち切れた気がした。
立ち止まってた足を動かし歩き始めた、そこから早足に、今度は駆け足に。あっという間に彼らの近くへと辿り着いて、足を止める。息を乱す私にトントンは目を見開き、女の子たちは不快感を表情に露わにする。
「ちょっと、何?邪魔しな、」
「ごめんなさ!でも。彼は、」
私の好きな人なので、渡せません。
絡みつく腕から離す様に彼の腕を引っ張って、開いていた腕に自分の両腕を絡みつかせる。自分が頓珍漢な事を云った自覚はある。事実彼女たちの「はぁ?」と苛ついた声が胸に突き刺さってきた。でも、だめ。此れだけは譲れないの。
私が彼の事を一番好きなの。
もう一度ごめんなさい!と声を張り上げてからトントンの腕をつかんだまま早足にその場を後にする。後ろから戸惑いながら呼ばれる名前に振り向くことも出来なくて、ただ私は無言で足を動かしていた。
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ももね(プロフ) - りんごさん» ありがとうございます!喜んでくださったようでうれしく思います。私自身も「お友達から始めませんか、」は特にお気に入りのお話でしたので続編を書くのはとても楽しかったです!この度はリクエストありがとうございました! (2020年5月14日 22時) (レス) id: 2fa0c60296 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - ももねさん» ももね様!リク消化ありがとうございます!もう好きすぎて言葉に表せないくらい好きです!ももね様!本当にありがとうございました!愛してます! (2020年5月13日 22時) (レス) id: ed57538bc3 (このIDを非表示/違反報告)
ももね(プロフ) - 天真爛漫さん» ありがとうございます!天真爛漫さまのご希望に添えたなら幸いです。今後ともよろしくお願いします! (2020年5月8日 10時) (レス) id: 2fa0c60296 (このIDを非表示/違反報告)
天真爛漫 - 作者様、素敵な作品を書くてくださり、ありがとうございました!! (2020年5月6日 21時) (レス) id: 545c0410b5 (このIDを非表示/違反報告)
ももね(プロフ) - りんごさん» はじめまして!コメントありがとうございます。ありがとうございます…!好きなフレーズを題名にさせてもらいました!^^リクエスト承りました!執筆が完了次第投稿させていただきます。よろしくお願いします! (2020年5月3日 23時) (レス) id: 2fa0c60296 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももね | 作成日時:2020年4月13日 19時