Harmonia【短編集】 (ページ7)

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「…え、ここのお姫様は警戒心とかないわけ？」

「敵の本拠地の、ど真ん中にやってくる魔族の方もいないと思いますけど……」

「いやー…っていうか驚かないんだ。」

「夜風に当たっていて、空を見たら人が飛んでいた時は驚きましたよ！？」

……思い出すのは３か月くらい前の話。
魔王……そらると初めて会ったのは今日みたいに満月の夜だった。
初めて見る魔族は端正に整った顔と夜空のような髪を持ち
その目は深い青色で、とても綺麗だった。

「綺麗…」

「…え？」

「あ、ごめんなさい、じろじろ見てしまって…」

「い、いやそうじゃなくて…怖くないの？俺、一応魔族だよ？」

「…怖くないですよ。」

「そっか…ありがとう。」

ふわりとほほ笑んだその表情がとても綺麗で、胸の奥がドキッとして。
恋だって気づくのに時間はかからなかった。
そして、その想いも争いをなくしたいという想いも同じだということに
気が付いた私たちは、夜な夜な逢瀬を重ねていた。

「あー、勇者出発しちゃうんだ。」

「…魔族への交渉は大丈夫なんですか？」

「交渉も何も、あいつらもノリ気だったよ。」

夜空の下、彼と空を飛ぶ、特別な時間。
争いを永遠になくしたいと思っていた私たちはありとあらゆる文献を漁った。
その中で私が見つけ出したのは、膨大な魔力と引き換えに世界を作り出す
禁断魔法である…そらるに言わせたら魔族の魔力で事足りるらしいけど。

「……その魔術って、王族しか使えないの？」

「そうみたいです、魔力は他の人でもいいんですけど……」

「……Aはさ、自分を犠牲にすることないんだよ？」

そらるの目が、表情がその言葉と裏腹に不安そうに訴えてきた。
…なんか、すごい思い違いをしているんじゃないでしょうか。

「…甘く見ないでください。」

「え？」

「好きになっちゃったんです、どうしようもなく。そらるのことが好きなんです。」

「え、どうしたのいきなり。俺も好きだけど……」

「だから、今更そらるがいない世界なんて嫌なんです。」

連れてってください。そう言えば、彼は小さくため息をついて近くに降り立った。
ベンチに座ったと思えば、ひざに回ってた腕が背中に回って強く抱きしめられる。

「…連れてって、いいんだね。」

「はい。」

「離さないからね。」

「約束ですよ？」

「……うん、約束する。この月に誓ってね。」

誓いのキスと言わんばかりに、唇を重ねた後。
そらるはしばらく私を離してくれなかった。