【zm】世界でいちばん好きな君に ページ13
ふっと鼻を掠めた制汗剤の爽やかな香り。
匂いだけでわかってしまうなんて本当にバカみたい。
私はホームを歩いていく元彼氏の姿から目を背けた。
別れた理由なんて、まるで大したことない。
噂とか人の目とか、そんなくだらないことに重圧を感じて耐えきれなくなったっていうただそれだけ。
ろくに相談もしないでただ一言別れを告げれば彼も「Aがそういうんなら。」とだけ言った。そんな言葉に甘えて、なんだ、ゾムくんもそこまで好きじゃなかったんだ、と自分に言い訳をした。
残ったのは余りにも身勝手すぎる後悔だけだった。
生徒の中でこの電車を使うのは私とゾムくんしかいない。
もともとそれがきっかけで仲良くなったのに。
唯一、人の目を気にせず話せたこの空間も今ではすっかり色褪せて見える。
がたん、ごとんと揺れる度に交わした言葉のひとつひとつが泡のように浮かんでくる。
そうして電車を降りる頃には頭の中はゾムくんで一杯になって。
ほんと、未練がましくて自分勝手な女。
改札を出て左手に見えるエスカレーターを通り越す。あっちは地下鉄へ乗り換える道だ。
エスカレーターを降りていくはずのゾムくんの姿はもう見えない。彼は乗り換えの効率を良くするために出口に1番近いところに乗っているからもうとっくにエスカレーターに乗って降りているのだろう。
そのエスカレーターから少し行った場所にある大きな大きな窓ガラス。
眼下に地下鉄の入り口へ続く道が見えるこのガラスの前で、やっぱり私は足を止めてしまう。
あなたに気づかれずにあなたを見れる場所だから。
私はあなたが好きでここから見ているから、
もしも、
もしもあなたが私を好きでいてくれてるなら、
目が合うんじゃないかって。
恐る恐る覗き込む。
ゾムくんはいなかった。
それでも流れる人の中に必死に彼を探してしまう。そんなことしたって何も意味ないのに。
体格が良くて、スポーツマンで、食べるのが好きで、人が食べるのを見るのも好きで、テンパると言葉に詰まって、ゲームがびっくりするぐらい上手くて、考えるのが苦手で、かっこいい、すごくかっこいいゾムくん。
そんな中眼下の人混みは無情にも流れを止めることはない。
探し求めた緑色が視界に入ることもなかった。
「…………ばか、みたい。」
ガラスに手を当てて呟いた。
食いるように近づいていたガラスが私の吐息で微かに曇った。
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雛菊(プロフ) - 美桜さん» 通知に気づかず返信が遅れてしまい大変申し訳ありません!2ヶ月以上も前に……(汗)読んで頂きありがとうございます!計算高いトントンはめちゃくちゃ気に入ってるので嬉しいです! (2017年5月15日 1時) (レス) id: c858a49007 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - ヤバいヤバいグルさんも超格好良すぎだけど、トンさんの計算高い感じも格好良すぎぃ! (2017年3月4日 8時) (レス) id: 7a0b0fb690 (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - 酒呑童子さん» あああどうもありがとうございますうう!! (2016年11月28日 13時) (レス) id: 6d4fabdf41 (このIDを非表示/違反報告)
酒呑童子 - お化け屋敷のお話がすごく好きすぎて何回もハイルグルッペンしそうになりました...!これからも頑張ってください! (2016年11月28日 0時) (レス) id: 31dd048566 (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - テル@コクさん» おおおここにまた我々の忠実な信徒がひとり!ありがたいお言葉です!!がんばります〜〜 (2016年11月27日 9時) (レス) id: 6d4fabdf41 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛菊 | 作成日時:2016年8月26日 23時