検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:18,332 hit

第8話 ページ8

*


「そろそろ出るか」


ハンバーグを食べ終えて
一息ついたところで
伝票を手にした神谷くんに続いて
バッグから財布を出しながら席を立つ。


財布を開けて、しまった…と
情けなくポカッと口が開いてしまう。


五千円札しかなかったのだ。

昨日の買い物で崩そうと思っていたのを
すっかり忘れていた。


しかし後ろで焦る私には気にもとめず
伝票をレジに出して
金額を聞いた神谷くんが
自分の財布からサッとお金を出して
お会計を済ませてしまった。



「神谷くん、ごめん。
今ちょうど持ってなくて
後で崩して返すから…!」

「いや、返さなくていいよ」

「え!ダメだよ!
お小遣い大事にしなきゃ!」



ちょっと強い口調になってしまう私に
神谷くんはパチパチ目を瞬かせて微笑する。


「ああ、わかってる。
だからこの後行くカフェ代お願いな?」


神谷くんは鼻から私が奢ってもらうことを
拒否するのがわかってたようだ。


「も、もちろんです!」


大きく頭を縦に振る私の手に
神谷くんの手がそっと触れて
指を絡ませ握り込んだ。

最初とは違う、
所謂恋人繋ぎというものだった。



「Aちゃんはどっちが好き?」

「えっ…と、何が?」

「繋ぎ方。こっちと、こっち」



神谷くんは恋人繋ぎをほどいて
最初にしていたように手を重ねて握る。


比べてみて改めて感触の違いに気付く。


重ねるだけの繋ぎ方の方が
神谷くんのゴツゴツした野球部特有の
掌の感じがよくわかって
かなり好きだと思った。

でもすぐにほどけないように握られる
恋人繋ぎも素敵で
特別感があるのも否めない。

本気で悩んでいる私の隣で
神谷くんがくつくつと笑いを堪えるように
口元に手の甲をあてて
肩を震わせているのにハッとする。



「私、なんか変だった?」

「すげぇ真剣に悩んでるからさ。
可愛いなと思って」


神谷くんは息を吐くように
可愛いとサラッと言ってしまう。


そして「そんなに悩むんなら
交互に変えながら繋ぐか」
と言ってくれる神谷くん。



「神谷くんってさ…」

「ん?」


『慣れてるよね』と言いそうになるのを
寸前で喉の奥へ飲み込む。

黙り込む私に神谷くんは眉をしかめる。


「ごめん、何でもない!」


首を振って歩きだそうとするけど
神谷くんは前に進もうとしない。

真っ直ぐ私を見ている。



「Aちゃん、俺さっき言ったよな。
嫌なことはちゃんと言ってほしい、
言ってくれないとわかんねぇって」

「別に嫌なことじゃないから…」

第9話→←第7話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (105 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
150人がお気に入り
設定タグ:ダイヤのA , 神谷カルロス俊樹   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

もっちー(プロフ) - 続きが楽しみです!!更新待ってます🙌💖💖 (8月27日 2時) (レス) id: 28f73aa9c2 (このIDを非表示/違反報告)
名無し52551号(プロフ) - 続きが気になっています! (2021年1月5日 23時) (レス) id: 990a644328 (このIDを非表示/違反報告)
ポン酢(プロフ) - 何回も読み返して、いっぱいときめかせてもらってます!!更新たのしみにしてます! (2017年12月10日 21時) (レス) id: 1aaa9be303 (このIDを非表示/違反報告)
ユミヤミ - 更新お願いします (2017年8月27日 11時) (レス) id: f8c960a3cf (このIDを非表示/違反報告)
れい - 待ってました!更新頑張ってください (2017年8月22日 23時) (レス) id: 78b913d76d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:あんず | 作成日時:2017年3月2日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。