拾伍.添い寝(直球) ページ19
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夢主side
さて、そんな愼寿郎様について、だが。
生憎とも私には、見え透いた地雷を踏みに行く気は無い。
どんな事情があろうとも、彼の背後には"何か"がある。
それは確かだ。
だから、私もこれ以上深入りする事はしない、と思っていたのだが……。
煉｢……、紬…｣
『ひぇ、』
待って、
(待ってーーーッ？！)
何故……何故旦那様に後ろから抱き締められる事になっているのだろうか。
いや、寝惚けてるのは分かる。
分かるのだが、これは……。
(た、大変心臓に悪い……)
唐突な触れ合いに鼓動が止まらない。
一応夫婦なのだし、部屋は同じだ。
布団も寄せ合っているし、それに不満は無い。
ただ、今まで夫婦らしい行為をした事が無いのは確かだ。
それは例えば…夜伽、とか。
それは、結婚初日の夜に掛けた夜這いを明確に拒否された事に他ならない。
……全ては、我らが藤ノ宮家の存続の為。
私は、お世継ぎを産むため。
そして、煉獄家の優秀な血筋を増やす為。
────ゆっくりで良い
────君の気持ちに整理が付いてから、それからで良い
────俺はいつまでも待つよ
不安を、見抜かれていたのだろうか。
使用人、果ては家族までも欺いて。
どうなるのだろうか、何をされるだろうかという不安をずっと吐き出せないままでいて。
あの夜、私自身も気付かない振りをしていたキラリと光る涙に気付いたのは彼だけだった。
もぞりと布団に潜る私の頬を、まだ今より幾らか柔らかい掌が優しく撫でた。
(……あぁ、けどそうだ)
もう、良いじゃないか。
このまま世継ぎを産み、実家を存続させれば。
あの人に、
そう、思って。
寝惚けたまま腹辺りに伸ばされる手に、静かに己の手を重ね。
片方の手で、寝巻きの帯を解こうとし、
不意に、啜り泣く声が耳を掠めた。
煉｢っ、……う…ぁ｣
(旦那様……？)
今までの旦那様からは想像がつかない程、弱々しい声だった。
言葉に詰まる息遣いが首筋を優しく撫ぜる。
腹辺りに添えられる手に力が入る。
まるで、縋るような。
煉｢おいて、｣
煉｢俺を置いて行かないでくれ、紬……ッ｣
紬。
確かに、私の名前を呼んだ。
……嗚呼、そっか。
この人は、怖がりなんだ。
今夜、起きたら隣に私が居なかった旦那様の心境を考えればどれだけ怖かった事か。
どれだけ軽率か、どれだけ愚かか分かった。
(……この時間が、ずっと続けばいいのに)
す、と目を閉じた。
もう少し、もう少しだけ。
貴方の熱を、感じていたい。
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作者名：朝霧 アテネ | 作成日時：2022年8月23日 23時
